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「出汁と味噌と具を混ぜてから凍らせとくんだよ。そんで食いたい時にお湯入れて、かき混ぜれば、ほら」
「……あ、味噌汁の匂い!」
「便利だろ? ネットで見つけた」
あっという間にお麩とワカメのお味噌汁が出来上がった。私も同様にお湯を入れ、掻き混ぜる。
「……す、すごい……画期的……!」
「な? まあ、やっぱ普通に作るヤツより味は劣るけど、時間無い時は便利なんだよ。……それより、さっさと食おうぜ。冷めるし」
「はっ! そうですね!」
私は味噌汁を掻き混ぜる手を止め、両手を合わせる。恭介さんも向かい側で同じように手を合わせた。
「いただきます」
「いただきます!」
お決まりの挨拶が、二人の“約束”の合図。「毎日一緒に晩ご飯を食べる」──そんな珍妙な約束を交わしてから、約1ヶ月。私はまんまと、彼に胃袋を掴まれてしまっている。
相変わらず綺麗に並べられた料理の品々をじっと見て、私はほう、と息をついた。まず、何から口を付けよう。お味噌汁は絶対まだ熱いから、後回し。
「よしっ、生姜焼きからっ!」
「よしっ、て何だよ。飯食う時だけは年相応に元気だよなお前」
キャベツにドレッシングを掛けながら、恭介さんが呆れたように見つめてくる。何だか急に恥ずかしくなってしまって私は縮こまった。ご飯の時だけ年相応って、普段は一体いくつに見えてるんだろう。
そんな事を考えながら、おずおずと私は生姜焼きを口に運ぶ。その瞬間、悶々と蔓延っていた余計な考えはぱちんと弾けてどこかへ消えてしまったわけだが。
「おっ、おいしい……!」
「出た、大袈裟」
ふ、と目の前の彼が笑う。ぱっと顔を上げて瞳を輝かせた私は、口の中の豚肉の柔らかさに感動していた。
「何でこんなに柔らかいんですか? いいお肉使ってるとか?」
「いや? 普通のスーパーの安い肉」
「ええ!? でも、すごい美味しい……!」
「弱火でじっくり焼いてるからな」
強火で一気に焼くと硬くなるんだよ、と言いながら、彼は生姜焼きを白米の上にバウンドさせて口へと運ぶ。彼の生姜焼きにはおろし生姜だけでなく刻み生姜も入っていて、少し辛味が強いがそれがむしろご飯に合って丁度いい。天才か、と心の中だけで賞賛しながら私は黙々とご飯を食べ進めた。夜中なのに。罪深い。
「そういや、バイトどう? 慣れた?」
ふと、恭介さんがそんな事を尋ねてきた。私はそれこそバイト先から頂いて来た唐揚げの南蛮漬けに箸を伸ばしながら頷く。
「はい、だいぶ。接客とか初めてで不安だったんですけど、スタッフの人もみんな優しいし……」
「……そ。良かったじゃん、ちょっと心配してたから安心したわ」
「心配してくれてたんですか?」
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