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ほぼ家の中へ入りきっていた大男は、歩みを止めて上半身だけを後方へ向けた。
今は無いが、イオの感覚では耳から尻尾の先まで全身の毛が逆立っている。
白い仮面を着けた大男が、明らかにこちらへ関心を向け、その殺気の標的を変更していた。
「ルトさん、これ本の中で死ぬとどうなんの。」
「え、知らない。」
「途中で脱出とか無いの?」
「うん。そうみたい。」
「説明書全部読んでないのかよ。」
「だって字ばっかで飽きちゃったんだもん。」
拮抗していた正義感と恐怖は、恐怖の完全勝利で幕を閉じる。
抗える術が何も無いこの状況で、僅かな希望も相方によって粉砕された。
今選べる選択肢は諦めた上での死か、固まる身体を奮い立たせての逃走かしかない。
本の中という特別な条件の死が起こす結果が、ただこの世界から排出されるだけなら、このまま大男と対峙し、討死するのも体験としてはありだと考える。
だが自分をここへ連れてきたルトの答えは、結果が排出ではない可能性を残す頼りないものだった。
「逃げるぞ。あんなの無理だろ。いきなりボスが出てくる冒険とかふざけんな。」
「あ、あれ見てイオ君。」
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