【AXE】

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窓ガラスの割れる音が響き、間髪を入れず木の板を破壊する音が静寂を切り裂く。 茂みの隙間から覗くルトの目には何も映らないが、イオの目には月明かりだけで何が起きているかはっきりと見えていた。 今の自分よりも一回り以上大きな人影が、斧で目の前の家を破壊している。 幸いこちらには気づかず扉の破壊を続けており、幾度かの攻撃を持ちこたえたその扉は、もう後少しで役目を終えそうだ。 窓には硝子の欠片が申し訳程度に残っていて、その合間を人影が揺らめく。 斧を持っているのは男のようで、明らかな殺意がその背中からも痺れる程伝わり、木を切るための木工具が、人を殺める凶器に変わるのも時間の問題だ。 扉を破壊した男が、その後何をしようとしているのか嫌でも想像が着く。 助けなければと咄嗟に考えても、思考に反して体は震えを止めるのが精一杯で、ルトの口を塞いでいる手の平には、じんわりと冷たい汗が滲んだ。 「イオ君、これ、本の中なんだよね。僕達どうなるんだろう。」 息苦しさに耐えられなくなり、イオの手をそっと外したルトが不安そうに彼を見上げ、漸くここが現実とは違う世界なのだと思い出す。 目の前で起きている光景を、手短にルトへ囁いた。
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