近所の主婦の証言

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近所の主婦の証言

 道雄くんは、そりゃもういい子でしたよ。お父さんも血が繋がっていないけど、あの子のことを大切にしてるのは分かりました。  ただ、限度ってものがねえ。あの子、よく殴られているのか痣が体中にあったから。  それを学校の友達に心配されて、嘘をついている内にのけ者にされるようになったみないなんですよ。  中学受験にしても、あの子の部屋の電気、深夜の二時近くまでついてましたし。  やりすぎと言うか、なんというか。  受験の当日にあの子が学校のロッカーに閉じ込められた事件があったけど、あれも勉強ばかりしてボロボロになっているあの子を、これ以上見てられないって、あの子の親友だった子が起こした事件らしくてね。  それでもあの子、お父さんのことが大好きでした。お父さんと一緒に道を歩いていると、凄くニコニコしてるんですよ。一度だけ、泣いているあの子に声をかけたことがあるんですが、僕が不出来な息子なせいでお父さんが可哀そうだって。なんか、その話を聞いて、絶句してしまいました。  お母さんにも相談したんですけど、家のことですからって取り合ってもらえなくて。私も他人ですしね、見守ることしかできませんでした。子供にも、あの子のことはそっとしておきなさいって言っておきましたよ。  そしたらあのお父さん、家の息子を仲間外れにするなって家に怒鳴り込んできて……。  それからもう、あの家に関わらないようにしています。ええ、この近所中がそうなんじゃないですかね。  それにしても、道雄くんは本当に可哀そうでした。あんなお父さんじゃなければ、死ぬこともなかったのに。それにしても誰かあの子に声の一つもかけてあげれば、あの子は自殺なんてしなかったんじゃないかなって思うことがあるんです。  本当に、誰があの子を殺したんでしょうかね。                                (了)  
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