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そんな半端な状態だからかもしれない。恋い焦がれていた相手を目前にし、心が引き寄せられている自分がいる。
だからと言って、距離をつめようとは思わないが。
「信じるかそうでないかと言われたら信じないかな。冗談にしか聞こえないもの」
「だよな。でも、悲しいことに冗談じゃないんだ」
星の海を宿した、彼の瞳に揺るぎはない。嘗ての彼を知っていれば、その眼差しが冗談を述べていないと悟るのは容易かった。
しかし、それでも素直に受け取るのは難しい案件だ。そもそもが非現実過ぎる。返すべきリアクションに悩み、結果一つの仮説を作り上げた。
彼との何十年分ものブランクが、ポーカーフェイスを巧みにした――そう言うことにして、話を小さく濁すことにする。
そもそも彼は元々思考の読めない人で、よく真顔でジョークを言っていたし。
「もう、どうしたの今日は。急な話って言うから何だと思ったら」
「まさに、今している話がそれさ」
しかし、はっきり示され仮説は脆く崩れ去った。
ウェイターが静かにやって来て、追加を必要としないか尋ねてくる。彼は少し高価な生ハムとサラミ、そしてチーズのセットを頼んだ。それも、何も言わずに二人分。
ウェイターが去るのを横目で確認し、先程の会話に戻る。今だ本気にはしていないが、冗談だとも片付けられなかった。だからウェイターの目を気にしたのだ。
「さっきの話だけど本当なの? 前触れどころか滅びる気配すら感じないけど……」
「本当さ。成す術がないから、政府も研究者も隠してるんだ。それこそ大パニックを招きかねないからな」
流暢に、それから堂々と彼は言い切る。かと思ったら、指先で大空を指した。固定されたまま煌めきを主張する、星たちの集いが目に入る。
「あれが落ちるんだ。しかもたくさんな。時間にしてきっかり十二時。だからあと三時間くらいかな」
天文学者の特技か否か、彼は空から一切目を離さず時間を割り出した。尻目で店内の時計を確認したところ、完璧に言い当てていた。
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