The world is over

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「それで貴方は行くの? 貴方なら、どんな土地に着いても生きていけそうだけど」  専門は天文学だが、彼はどの分野をとっても器用だった。ただ、それは物理に対しての話で、人間としてあまり出来た人だとは言えない。  しかし、愛情だけは人一倍表してくれる人だった。そんな所に惹かれていたことを思い出す。 「そこは肯定するよ。でも、愛する人を残してはいけないな」  後半の言葉が、私に向いていることは直ぐに分かった。しかし、敢えて触れずに会話を進めて行く。 「って言うことは残るの?」 「ああ、君がいなくて寂しいのはこの地だけで十分さ」  ロマンチックな台詞に笑み一つで対応し、再び上空を仰いでみる。  世界を壊す気配など、やはりどこからも感じられない。微弱な振動も、日常に調和しない音も、何一つない。  あるのは、星の散らばる群青の空だけだ。 「綺麗ね。落ちるなんて想像もつかない」 「その感じじゃ信じきっていないね。無理もないけれど」 「だってあまりにも突然すぎるもの」 「まぁ、それでも良いさ。その上で、許されるなら君の時間が欲しい」  時間とのワードで、反射的に時計を見てしまう。十二時まで残り二時間――彼の話が真実ならば、感傷に浸るべき残り時間(タイムリミット)だ。  いっそのこと、真実のつもりで一夜だけ彼に心を捧げるのも有りかもしれない。 「一緒に終末を迎えて欲しいって?」 「そうだな。いや、僕はただ君の選択を変えたいだけかもしれない、なんてね」 「……変わるかしらね? でも、せめて今夜だけは共に」  ワインをそっと持ち上げる。昔の記憶が重なり、心ごと戻ってしまいそうになる。  グラス同志がぶつかり合い、小さく音を鳴らした。彼も同じく戻りかけているのか、表情に安らぎが点っていた。
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