初任給

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「おおお……」 社会人になって初めての給料明細。働いて20日弱。職場では全く役に立っていない私だが、こんなに給料をもらっていいのだろうか。 そんな不安そうな私に気が付いたのか、先輩が 「一か月頑張ったご褒美だと思って好きなもの買ったらいいよ」 と背中を押してくれた。 向かったのはデパートの化粧品売り場。 大学生の時、キラキラした女の子たちが憧れだった。 ここで化粧品を買えば私もあの女の子たちみたいになれるのかな、そんな期待を胸に売り場を練り歩く。今日は給料もある。せっかくだから何か買ってみようと思った。 「いらっしゃいませ、何かお探しですか?」 にこにこと売り場のお姉さんが話しかけてきた。 「あ、あの……」 そう言われて気が付いた。 まず私は何を買いに来たのだろう、と。 下地?ファンデ?アイシャドウ?リップ? 家にある安い化粧品と普段の自分を思い出して頭の中でぐるぐると必要なものが回る。 考えれば全て必要なようで、考えれば全て必要ではないようで。 背中にどっと汗をかいた。 「お客様?」 「……ま、また今度きます!」 きらきら輝く場所に背を向けて私は逃げ帰った。 「はあ……」 先ほどの自分の醜態を思い出し、顔が真っ赤になる。とぼとぼと帰路につく。 「ほんと、はずかしい……」 帰りに家の近くのコンビニに入る。コンビニでも化粧品はたくさん売っていて、それを見ながら一体何を買えばいいのだろうと考える。 結局分からなくて、その辺にあった化粧品の雑誌を手に取り、家で勉強することにした。 「ふうん、まずはスキンケアから始めるべきなのかあ……」 読みながら自分の肌を触る。ニキビがぽつぽつとあるこの肌が自分は好きではなかった。 「洗顔と、保湿……それから健康的な食事、ね」 よし、と心を決めて雑誌を閉じた。 まずはスキンケアから始めよう。 雑誌おすすめの洗顔料を買い、泡立てスポンジを買い、ふわふわの泡で洗顔を始めた。 「何これ、ふわふわで気持ちいい」 きめ細かい真っ白な泡が肌に触れるたび、優しく撫でられているようで気持ちがいい。 ごしごしこすらないように、と本で読んだので丁寧に洗顔する。 タオルもごしごしこすらないように、とんとんと水分をふき取り、これまた雑誌おすすめの化粧水と乳液を顔につけた。 「これで、よし」 食事にも気を付けた。野菜を多めにとってバランスよく食べるようにした。 すると、どうだろう。あんなに悩んでいたニキビが少しずつ減って来たではないか。 「すごい、つるつるになってきた……」 自分の頬を撫でるのが楽しくなった。 こうやって綺麗になると自分に自信が出てくる。 今度こそ、デパートに行くことにした。 事前に情報を収集し、買いたい化粧品をピックアップしておく。 「いらっしゃいませ、なにかお探しですか?」 「えっと、これください」 スマホの画面を見せると、スムーズに買うことができた。 お店のお姉さんに化粧のやり方を教えてもらい、家でも化粧の練習をする。 自分の肌が綺麗になると化粧のノリもいい気がした。 「最近調子がいいね」 職場の先輩にもそんなことを言われるようになった。 肌が綺麗になって化粧もうまくなると、自分に自信が持てるようになる。 「ありがとうございます」 仕事をするのも楽しくて笑顔になる自分が増えた気がした。 そんなときだ。 新社会人初めての夏休みに、大学のゼミの同窓会が開かれることになった。 就職で地元を離れた友達も帰省する。卒業以来の再会だ。 ちょっと気合を入れて、いつもより丁寧に化粧をする。あれから雑誌をよく買うようになり、化粧の仕方を研究するようになった。 学生時代は似合わないと思ってはいてこなかったスカートも履いてみる。 「ひさしぶり」 大学時代に仲が良かったメンバーと会う。 お互いに仕事の愚痴や彼氏彼女との恋ばなに花がさいた。 「そういえばさ」 隣に座っていた女の子が、ぐいと近づいてきた。 「な、なに?」 じっと肌を見られて、どきまぎしてしまう。 「化粧上手になったよね?」 自分が頑張ってることろを認めてもらえて 「そう、働き始めてから勉強してるんだ」 素直に返事をすることができた。そんな会話を目の前で聞いていた男子からは、 「なんか、きれいになったよな」 「たしかに、大人っぽくなったよ」 とほめられてドキリと心臓が跳ねる。 「そうかな?」 「そうだよ、肌つるつるだし」 「これからどんどん綺麗になっちゃうね」 「えーがんばる……ありがとう」 少しずつ自分に自信が持てるようになった気がした。 また、明日からもがんばろう。
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