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嘘をついている様子はまるで無い男を見て、娘は決心して言った。
「ここは…私の知人のお屋敷なんです……。家主はもう居ないので…今日で、私もお暇をいただくことになっていて。その…私が今日訪ねたら、あなたが外に……」
本当のことを言うことも出来ず、しどろもどろな娘の説明。
しかし男は気にすることなく、
「そうか……」
と、ゆっくりと頷いた。
静かで穏やかな雰囲気の男に、娘は打ち明け始める。
「あ…あなたとは、お会いしたことがあります…!!あなたは私の恩人なんです!私と弟を幼い頃に救ってくださった…」
しかしやはり男は覚えがない様子で静かに首を横に振る。
「俺は悪いが何も覚えていないんだ……」
「っ、それでも……」
娘は涙を流し、微笑んで言った。
「それでも、私はあなたを探していました…ずっとお礼が言いたかった…あなたに会いたかった…!やっと会えた…!!」
「お前…そうか……」
男は初めて会った頃よりも優しく、穏やかに微笑む。
「記憶が無いのなら、私はあなたの力になりたいです!私たちを救ってくださったように、あなたのお手伝いをさせてください!私はメロディ。メルと申します」
「そうか…済まないなメル…」
娘は男を抱き起こそうと、身体にそっと触れる。
なぜか、懐かしいようでそうでもないような、不思議な感じがした。
(…悪魔さん……)
娘はその後、愛する弟とともにその男を助けながら過ごした。
男はやはり何も思い出せないままだったが、優しい娘のそばで末永く生きていこうと心から思った。
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