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大人になって
あれから5年。成人式をきっかけに久々に帰省した正月休み。母伝に時々怜菜の話は耳にしていたけれど、一度会わないと決めてしまえば、こんなに簡単に、本当に会わずに、気づけば体だけ大人になっていた。成人式に行くかどうかも本当は迷っていたけれど、一生に一度のことだからと母に勧められ、渋々出席を決めた。
もし、会ったら。なんて言おう。何を話そう。謝るべきか、それとももう口をきいてくれないかな。どうすべきか、そもそも式に来るのかどうかもわからず、結局結論を出せないまま、あっという間に当日を迎えた。開会30分前、会場の人混みの中でも、すぐにわかった。記憶の中の少女の面影を残したまま、会わなかった数年間で、可愛らしさと美しさを兼ね備えた大人の女性になっていた。遠くから私を見つけ、目が合った怜菜は、控えめに手を振って微笑んだ。
自分から連絡を絶った手前、気まずさを拭いきれず、正面から見つめることができない。そんな私とは打って変わって、あっけらかんと話しかけてきた怜菜に救われた。少しずつあの頃のテンポを思い出し、話が弾む。きつく絡まっていた結び目が、渦巻いていたわだかまりが、ほどけて溶けていく。正直な思いが、素直に言葉になって自然と出てくる。
あの頃は怜菜の全てが羨ましかった。そのひとつであった、きれいな髪。くせ毛の私と、サラサラな黒髪の怜菜。幼少期からずっと羨ましく思っていたことを話した。
「私はむしろ香奈ちゃんの髪が羨ましかったな。」
「え?」
「いつもお母さんに結んでもらってたでしょう?毎日違う髪型で、くるくるふわふわしてて、お姫様みたいでいいなって思ってた。」
返す言葉が見つからない。頭を思いっきり殴られたような衝撃。すぐにはその言葉の意味を理解できなかった。お姫様?お姫様って何?あんぐり口を開けたままの私に、少し照れくさそうに、白状するように怜菜は呟いた。
「幼稚園生の頃は絵本のお姫様になりたかったから、香奈ちゃんの髪に憧れてたの。」
啞然として、絶句した。私が一方的に羨んで嫉妬してきたはずだった。なのに、まさか、私が羨ましがられるなんてそんなこと、あるはずがないのだ。だって私には羨ましがられるようなところなんて、一つもない。どう頑張っても怜菜みたいに可愛くなれないことに、劣等感を感じ続けてきた。長年それに苦しんできた。お姫様みたいだなんて、とてもじゃないけどそんな風には思えなかった。
「懐かしいね。」
どこか寂しそうな、少し泣きそうにも見えた微笑みに、悟った。連絡先を変えたって隣に住んでいるのだから、会おうと思えば会えるし、連絡を取ろうと思えば方法はいくらでもある。それでも会わなかった理由を、怜菜はきっとわかっていたんだ。わかった上で、会わずにいてくれた。怜菜は私よりいくつも大人だった。意地になって会わなかったこの数年間に、いったい何の意味があったのだろう。くだらない嫉妬に縛られ、親友を傷つけ、数年間を無駄にした自分が恥ずかしくなった。そして、思い出した。子供の頃、何度も見せてくれた怜菜のお気に入りの絵本。その表紙には、長い巻き髪をなびかせたお姫様が描かれていた。私の中で、何かが切れた。割れて、消えた。
みんなそれぞれ長所と短所があって、得手不得手があって、そんな自分と上手に向き合ってる。コンプレックスとも、チャームポイントとも、上手に付き合ってる。人には人の地獄があって、それぞれが足掻いてる。子供だった私は、それに気づけなかった。自分ばかりが損をして、傷ついていると思っていた。どうしたって結局、自分からは逃げられない。自分として生きていくほかない。一生付き合っていくのだから、だったら少しでも好きな自分で生きていきたい。誰のためでもなく私のために、毎日機嫌よく過ごすために、自分の良さを自分で認めて、嫉妬や僻みに囚われて負けないくらい、強くなりたい。
人に好きになってもらうには、まず自分で自分を好きになることが一番手っ取り早いような気がする。そこに気づくまでに随分時間を要したし、他人を巻き込んで傷つけた。あの子にはあの子の良さがある。私には私の良さがある。比べるのではなく、それらを認め合って伸ばしていきたい。そう思えるようになってから、ようやくその人の本当の魅力が花開き始めるような気がする。これからはそうやって、少しずつ自分のことを好きになっていこうと思う。
私は、あの子にはなれない。あの子も、私にはなれない。
その現実を受け止め、前へ一歩踏み出せた私は、あの頃より少しだけ大人になれた気がした。あの頃よりいくらも素敵になれた気がした。
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