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第四話:ダンシング・幼馴染
「もー、須賀くん!」
弁当を一緒に食べたその放課後、頬を膨ませた小佐田がおれの教室までやってきた。
「いや放課後は来られないんじゃなかったのかよ」
「え? 部長会は4時からだからちょっとでもって思って……」
えへへ、と照れくさそうに頬をかく。何に照れてんだよ。
「……じゃなくてっ! 須賀くん、なんで起こしてくれなかったの!?」
くるりと表情を変えて、大声で小佐田が訴えてきた。いや、ここ教室なんですけど!?
「え、須賀と小佐田さん、どういう関係……?」「起こすってなに……!?」「一緒に寝たってこと……!?」
ほらほらほらほら! まずいじゃん!
「な、なに言ってんだよ小佐田!」
「あと、これ!」
小佐田が右手を突き出してくる。……その手に掴んでるものは、まずい。
「おい、それは今じゃなくて……」
どうにか制止しようとするが聞きやしない。
小佐田の右手にあったのは。
「これ、須賀くんのブレザーだよね?」
「いや、だから、落ち着け小佐田。ここじゃなくて一旦教室を出て……」
「これ、ありがとう! クリーニングして返した方がいい? わたしの寝汗がついちゃってるかもだし」
「「寝汗!?」」
ほらー、もう……。
ブレザーは、写真部の部室でうたた寝していた小佐田のスカートのあたりが若干無防備だったので目の前で弁当を食べてると目のやり場に困り、そっと膝にかけたものだ。
それから引き剥がすのも忍びないというか、一回かけてしまうとその行為はスカートめくりをするのと同然というような感じがしたので、そのままクラスに戻って来てしまった。
「でも須賀くん、根はやっぱり優しいよねっ。だから、わたしなんかに付き合ってくれるんだなーって……」
「小佐田、ストップ、まじで……!」
その言い方は語弊がありまくる……!
「どしたの須賀くん、そんな顔して」
顔面蒼白でアワアワしているおれとは対照的に、能天気に質問してくる小佐田。
「いいから、とにかく教室を出るぞ……!」
そう言って小佐田の肩を背中から押して教室を出ようとした瞬間、うちのクラスの女子・立川がニヤニヤと笑いながら話しかけてきた。
「ねえねえ、菜摘ちゃんと須賀ってもしかしてデキてるの!?」
「んあ!?」
いや、ていうか『デキてるの』って、なに時代の人なんだよ……!
その質問に小佐田は、
「ほぇ……?」
とキョトン顔で振り返りながら首をかしげた。
「もー何その反応! ウブで可愛いー!」
「ウブって……」
わかったこいつ、昭和の遺伝子を継承している系女子だ。
「『デキてる』って、なぁに?」
小佐田が相変わらずほけーっとした顔で尋ねる。
「『付き合ってるの?』ってことだよー! この3日くらい、いつも菜摘ちゃん、須賀に会いにくるじゃん! 須賀が菜摘ちゃんに『ほの字』なのは、菜摘ちゃん可愛いから分かるけど、菜摘ちゃんはいつOKしたのー?」
ほの字……。
説明されてやっと意味が分かったのか、小佐田は赤面する……かと思いきや、口角を大いにあげて、ニヤリと笑った。
「えー? そう見えちゃうー? 須賀くんとはー、幼馴染っていうかー、腐れ縁? っていうのかなー? なんかずっと一緒にいるからー、弟みたいな感じでー、わたしとかもうなんとも思わないんだけどねー?」
などと、謎のドヤ顔でそんなことを言い始める。誰のイメージなんだそのモノマネ……。っていうか、なんでおれが弟だよ、どちらかというと小佐田が妹だろ……。あとで誕生日を聞いておこう。
「へー! そうなんだー! その割には、今日まで2人が絡んでるとこ見たことなかった!」
立川には悪気も猜疑心も1ミリもありはしないのだろうが、小佐田は勝手にギクリ、と顔をこわばらせる。
「そ、そうなんだよー! 須賀くん、学校で話すの恥ずかしいとか言ってー、避けてくるからー」
「へー! 須賀、照れ屋なんだね! でも、須賀くんって呼んでるんだ? 幼馴染にしては距離感がある気もするけど」
「あー、それは、あの、その……!」
ボロボロじゃねえか……。
結果的に幼馴染でないことがバレておれの過去の話を暴露されても困る、と、助け舟を出そうかと思った瞬間、立川はてへぺろと自分の頭を叩いた。
「なーんて、こんないきなり色々聞かれてもワケワカメだよね! めんごめんご、許してちょんまげ! 私はここでドロンするから、あとは若いアベックでヨロシクやっちゃってよ! バイビー!」
「どろん……? あべっく……? ばいびー……?」
あまりの昭和言葉の連発に、もともと回転が追いついていない小佐田の脳みそが沸騰している。
はあ、でも、妙な追求を避けられてよかった……。と、胸をなでおろした瞬間。
教室を出がけに、立川が振り返って言う。
「それにしてもすごいね、須賀! こんなに可愛い幼馴染が、3人もいて!」
にこっとそんな爆弾だけを落として、今度こそ本当に立川は立ち去っていった。
「……『3人も』って、何?」
小佐田はこちらを見上げて、そのまま固まってしまった。
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