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昔々、なんていうほど昔の話でもないが、ある程度昔の話。ざっと十年ほど前、僕、佐々木咲、がまだ十歳程度の時の話をしようと思う。
その時の僕はまだ小さくて、可愛くて、純心だったと思う。いや、随分冷めた子だったかも。
その時の話。
どこにでもあるような、そんな珍しくもない話だ。
僕は実家のある岩手県のとある町にいた。
知っている人なんているほうが珍しいくらいの田舎だ、どのつく田舎。
毎年夏になるとこの田舎町に訪れる。理由ははっきりしている、ここに実家があるからだ。要するに故郷だ。
僕の故郷、故郷と言っていいのかも定かではないのだけれど、とりあえず僕はそこで生まれたらしい。
らしいなんて曖昧な言葉を使うのは自分でもどうかと思うのだが、一歳の時に東京に引っ越してしまったので記憶がないのは仕方ない。
こんな田舎で子供が遊ぶことといえば虫取りか、探検か、どちらにしたってゲーム機なんてものがないここでは、自然の中にいることしかできない。寝ても起きても自然しかない。
幸い僕は当時、虫も自然も嫌いではなかったので退屈はしていなかった。自然なんてむしろ今でも好きなくらいだ。
夏休み中町にいる予定なのだ、一人で遊ぶのにもいささか飽きが生じると考えた僕は友達と遊ぼうと考えた。
考えた、までは良かったのだが僕は恐ろしい答えに行き着いてしまった。
「ちょっと待ってよ、僕、友達いないじゃん」
一応注釈を入れておくと、僕は数年に一回、夏にこの町に帰ってくるのだが一か月と少ししかいないのと、実家が土地持ちなのも相まって友達をつくることができなかったのである。
周りに他の人の家がないところに少しの期間しか滞在しないやつのことなんて地元の子達が知らないのは当然である。知っているのはせいぜい僕と同い年と、一つ下のいとこ達くらいなものだろう。
しかも今は夏の始まり、つまり初夏である。
厳密にいうと今日は七月五日、皆、夏休みが始まったばかりで舞い上がっていて、よそ者の僕のことなんか道端ですれ違っても気にも留めないのだろう。気に留めたとしても、まるでそこらへんに落ちている道端の石のように、視界には入っても認識なんかしないだろう。
リアル石ころ帽子だ。せつねぇ。
とまあ、残念な現実に気づいてしまい、少しテンションが下がり気味の僕は、今日はどこに行こうかと考えていた。
「海かなぁ、いや今日は山に行こうかなぁ」
そう、僕の実家があるこの田舎町は前を向けば海、振り返れば山があるという、とてつもなく都会離れしたところなのである。
ここは良い町だなぁ、なんて考えていると突然。
「おーい咲、何やってんだー、暇なら手伝えよー!」
と、よく知った声が聞こえる。
よく見ると親戚の叔父さんの運転する車から体半分乗り出した父さんが僕のことを呼んでいた。
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