夏に願いを

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   手伝いがすべて終わったのはざっと五時間後、夕方になっていた。  五時間?  なんだよ五時間って。  五時間もあれば何でもできるぞ? 「くだらないことに五時間も使わせやがって、もう何にもできないじゃないか」  そんないかにも子供らしいセリフをぼやきながら、部屋の窓から夕焼けを背負った様にも見える海を見ていた。  一か月しかいないとはいえ、さすがに土地持ちの屋敷、子供たちには一人一部屋、それもかなり立派な部屋が与えられた。  僕の与えられた部屋は二階だった。  かなりの金持ちだ。東京の僕の部屋なんかより大きくて綺麗な部屋だぞ。  どうして僕の家には全然お金がないのに、この家はこんなにもお金があるんだ?  ちくしょう、ちょっとうらやましいじゃないか。  そんなことを考えているうちにどうやら晩御飯の時間になったらしい。  午後六時頃、一階から僕を呼ぶ声が聞こえた。  普段僕の家では、晩御飯はいつも大体午後八時頃からなのでやけに早いように感じ。  全部は食べきれないだろうな、と思いながら一階に降りて食事をとったのだが、今日の手伝いはかなりの重労働だったからだろうか、全部食べきることができた。  それも、かなりおいしく。  空腹は最高のスパイスというが、あれは本当だったようだ。 「咲はこの町の言い伝えを知っているかい?」  喋ることもせずに晩御飯を頬張っていた僕に気を使ったのか使ってないのか、突然おばあちゃんが僕に会話を振った。 「この町にはねぇ、七月七日の七夕の日に、死者の魂がいろんなものの体、形を借りて戻ってくるんだよ」  そんなどこの町にもありそうで、あまり耳にしたことがないような、口承でしか伝えられていなさそうなことを教えてくれた。  しかしその後に続けて、 「でも七夕の日には、妖の類も現れやすくなるから、気を付けるんだよ」 「七夕なのに、幽霊や妖怪なの? お盆じゃなくて?」 「人の願いが運んでくるんだよ」  叔父さんが答えた。  おばあちゃんが付け加えのように続けた言葉は、しかし、僕の中で何回か繰り返し再生された。 「妖や幽霊かぁ、そんなもんいないだろ」  すでに食器を片付けて部屋のベッドに寝転がっていた僕は気の抜けるようなセリフを呟いた。  冷めた子供だと思う、僕みたいな奴は遊園地のお化け屋敷なんて行かないほうがいいだろう。  少しして僕は、お昼頃に手伝いの途中、近くもないご近所さんのところへ向かっている道程で車の窓から見えた見晴らしのよさそうな丘を思い出した。  近くにはボロボロの、風が吹いたら崩れてしまいそうな小さな廃病院が立っているだけで周りには何もない、その丘の周りだけ木も生えていないのだ。  そのおかげでその丘は、この辺りでは一番見晴らしが良さそうだった。  いや、木が生えてないといっても丘の頂上、てっぺんには一本の木が生えていたような気もする。  僕はお風呂に入る前に一回行ってみようと思いベッドから立ち上がり、その丘へと足を運んだ。
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