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「それでは拝見しますね。失礼します」
「っ…!」
先生の優しい手が私の肌に触れ、つい反射的に手で隠してしまった。
「…だめですよ隠しちゃ。見えないじゃないですか」
「す、すみません…でも…恥ずかしくて…」
「恥ずかしくなんてないですよ。これは医療行為ですから。僕を信じて、ゆっくり体の力を抜いて…」
耳元でささやくような甘い声に全身の力が勝手に抜けていった。
「そうそう、上手です…あーこれはちょっとひどいですね」
突然先生の声色に緊張の色が広がる。
「そんなにですか…」
「ええ、結構頻繁に触ったり何かが当たったりして悪化していますね…このままですと跡が残ってしまいそうです」
「なるほど…」
「ひとまず5日間、薬を出しておきます。薬を塗って患部を清潔に保つよう心がけてください。もしもそれで治らなかったらまた僕のところに来てください」
「はい…」
なんだか思ったよりもあっけなく診察が終わり、少し拍子抜けだなと思ってしまった。
それを察知したのか、先生はベッドから降りる私に、また元の優しい声でこう言った。
「梨沢さん。薬はもちろんニキビを治してはくれます。でもあなたの肌を守るのはあなた自身です。あなたの意識次第で肌はボロボロにもなるし、ずっとキレイに保つことだってできます。どうか、ずっとキレイなあなたでいてください。」
…また時が止まった。
「…はい」
時を再始動させてなんとか精一杯の返答をした。
「お大事にどうぞ~」
看護師さんに見送られ、診察室を出た。
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