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瀬川の身体はやはり細く、どこもかしこも骨ばっている。太っているよりはいいのかもしれないが、あまり健康そうには見えない。俺が上にいると負担をかける気がしたので、早々に位置を入れ替える。  トイレでヤッた時みたいに、瀬川が少しも俺に勃たなかったら、さすがに文句をつけたかったが、今日は違った。  扱き始めた時点で半勃ちだったし、ほっとする。  ちょっと強引だったが、交流の成果が出たのかもしれない。  俺は瀬川のものを扱きながら、美佐央とは、どんなセックスをしてたんだろうな……と考えていた。  美佐央となら、この雄もすぐに硬直して、積極的なんだろうか……。でも、瀬川に一ミリも主導権はない。美佐央の言いなり。そんなセックスって気持ちいいんだろうか。  瀬川は、美佐央との行為にかなりの執着があるみたいだった。α同士で難しいのに、それでもやり方を探って……、オナ禁してまで美佐央とやりたかった。二人の間で、唯一擬似的に恋人みたいな行為だったのかもしれない。夢中になるのも仕方ないのか。  まるで教科書みたいな型通りのやりかたで前戯がすみ、俺の後ろも準備万端でいよいよ挿れる段階になった。瀬川の手順にそつはないが……少しも、やりたいという意志を感じられなかった。  はたしてこのまま、進んでいいのか疑問だ。  瀬川はセックスに同意したけど、基本は俺の憂さ晴らしに付き合ってもらっているだけだ。  寝ているところを起こした……。  それに、瀬川は俺とのセックスに嫌な記憶がある。ゴムをつけようとしている瀬川の手を握って、止めさせた。 「瀬川」 「ん?」 「口でしてやろうか」 「え……」  俺は瀬川の首を抱き寄せた。そのまま寝転がるようにと誘導する。瀬川を組み敷くと、徐々に頭の位置を下げていき、股間に顔近づける。 「小竹くん」 「されたことある?」 「……ないよ」 「俺もしたことない」 「無理しなくていいよ」  瀬川は、汗さえ嫌がるほどいつも清潔だったし、その点での抵抗はあまりなかった。  雄に手を添え、思いきって先端を口に含む。瀬川の腹筋はひくついていた。  そこまで特別な感覚ではなくて、足の指でも舐めているような、そんな気がした。瀬川がうっすら目をあけて俺を見ている。 「やなら言えよ」 「……嫌じゃ……、ないけどね。申し訳ない気が」  申し訳ない、の言葉にひっかかりながらも俺は行為をすすめる。  よくよく考えたら、経験もないのに平気でフェラ出来てしまうのは、変か……。  どう思われてるんだろう。でも俺は嫌々やってるわけじゃない。瀬川が、気持ちよさそうにするところが見たい。だけど俺がいくらやっても、心ここにあらずって感じだった。きっと美佐央のことでも、思い出しているんだろう。  文句は言えない。俺はスミくんの名前を呼びながらセックスしたというし……。それに比べたら。 (なに考えてるんだ、俺……)  口淫の途中であまりにも手応えが感じられず、俺のやる気はしぼんでいた。瀬川はなかなか達しないし、そのうち顎が疲れてきて、最後は手で扱いた。  瀬川とのセックスは、まるで浅瀬で小舟に揺られてるみたいな、波打ち際みたいな……ものだった。抜き挿しも異様にゆっくりで、俺の体内を、検分でもしてるみたいだ。弱いけど、確かな快楽がずっと続く。外に出ようとしても、また同じ場所に戻ってきて愛撫されてしまう。  気持ちいいし、悪くない。だけど、やっぱり瀬川は興奮しているようには思えない。行為はしてる。雄も勃っている……。  ひととおりが終わると身体はすっきりしていたが、虚しさも残った。  最後まで瀬川を”性欲解消に付き合わせた”という印象。媚薬の件があるから、これは瀬川にとって……責任をとるのと同等の行為なのかもしれない。  俺は苛立っていて、瀬川に文句をぶつけそうになったが、我慢した。八つ当たりだと気づいていた。  シャワーを浴びたあと、もちろん別のベッドで就寝し、翌朝。  俺は瀬川に揺り起こされた。 「小竹くん」  目を開ける。瀬川が俺を覗き込んでいた。もうすっかり着替えて、髪も整っている。 「10時だよ。食堂はしまってるけど……、なんなら、湖のそばのカフェまで食べに行こうか? 昨日見かけたとき、入ってみたかった。小竹くんは一度行ったって言ってたよね」 「ああ、うん……」 「それとも昼まで待つ?」  アラームは毎日同じ時間にセットしていた。そもそもアラームなんてなくても俺は同じ時間に起きられるはずなのに……。セックスしたせいだな、と朝食を食いっぱぐれたことを苦々しく思った。身体を起こしたが、どうも重だるい。ベッドから足を下ろし、立ち上がってみたが、思うように身体は動かない。俺はミニ冷蔵庫から冷えたペットボトルを取り出し、それを抱えてしぶしぶ布団にもどった。この体調には覚えがある。  たぶん、これから症状は重くなる。 「小竹くん……?」 「……瀬川、悪いけど……、フロントで抑制剤、もらってきてほしい。用意してあるって、どっかに書いてあった」 「え……?」  1ヶ月もあるここの生活に、自前で抑制剤を持ってきていない時点で、予定外だとはバレてしまう。  おそらく媚薬のせいで周期が狂ったんだろう。それは分かっていたが、口にはしなかった。不便な身体だ。週明けにはパラグライダーの予約を取り直していたのに。 「いつも使ってるメーカーは?」  商品名を告げると、瀬川はすぐに部屋を出ていった。  俺は溜息をつきながら、枕に顔を伏せる。  スマホ、どうしよう……。あんな切りかたをして、スミくんは心配してるだろうか。謝りたい。  身体が落ち着いたら、すぐにスマホを探す。  もし見つからなければ、フロントの脇にあった固定電話から、スミくんに電話してみよう。番号なら暗記している。  俺はもう一度ため息を吐いて、静かに目を閉じた。  昨日、瀬川はきっちりゴムをしていた。瀬川の普段を見ていたらわかるが、そういう人間だ。なんなら少し、潔癖っぽいところだってある。  あの夜はあまりにも唐突で、めちゃくちゃだった。瀬川にとっても、俺にとっても……。
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