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***  瀬川の丁寧な愛撫は健在だった。  月明かりだけが薄っすらと差し込む部屋で、肌に触れる瀬川の手の感触や、身体の重みが強く感じられた。  夜は少し肌寒いから、温もりが心地いい。何度か触れ合っていることもあって、大した障害もなく、挿入までたどり着いた。気恥ずかしいのは変わらなかった。 「大丈夫……?」 「ん……まあ」  瀬川が俺を気遣って、何かするたびにいちいち尋ねてくる。ホテルにいた頃はうざったいと思うこともあったが、今は懐かしく感じられ、胸がうずいた。 「いいぞ、動かして……」 「あのさ……今の状態って、どう? 気持ちいいのかな?」 「は……」 「前にここまでやった時は、俺、気がかりが多くて全然集中してなかったから……」 「き……気持ちいいっていうか……。良くはないけど、ムズムズする……」 「どこが?」 「入ってるとこ」  瀬川が俺の前髪に触れた。耳にさわって……、顎を撫でた。それから唇。深いキス。瀬川と行為をしているんだと思うと、どうも……気を抜くことが出来ない。  瀬川は言った。 「俺は……、こうしてるだけでもすごく……、気持ちがいいよ」 「ふうん……」 「あったかい」 「ん……、うん」 「君の肌からはいい匂いがする。ずっと嗅いでいたいくらい」  俺も同じことを思っていたから驚いた。瀬川は、また俺の顔に触れる。こめかみのあたりだった。……顔なんて、日常生活であまり触られることがない。そのせいか、やけにひとつひとつの感触が、特別でくっきりと感じられた。 「小竹くん……。相性ってなんなのかな。俺、こうしたのは君がはじめてだから、どう言っていいかわからないけど」  瀬川は俺の手をぎゅっと握った。指と指を絡めていた。 「同室になったおかげで、こんなに君と仲良くなれた。その事にはすごく感謝してる」 「うん……」  瀬川の腰がゆっくりと動きはじめて、もちろん、俺のなかでもじわじわと変化が起こった。 (あ……これ……)  じっとりと内壁が擦れていく。触れ合った部分が、あとを引くように気持ちよくなる。またこすって欲しくなる。うずく。以前はここまでの感覚、なかった。 「ん……」  自分でもわかるほど、途中で瀬川のものを締め付けてしまった。勝手に動いてしまう。動かすほど……、俺は気持ちよくなってしまう。瀬川が静かにうめくのをきいて、さらに官能的な気分になっていった。  瀬川はもともと綺麗だし、色気もあった。だから、ファンがつくのもわかる。初日に色々とありすぎて、目が曇っていたような気がする。衝撃的なシーンは、瀬川の良さを全部打ち消してしまった。 「っあ、う……」  もっと積極的に動いてもいいのに……、と思いながら口には出せなかった。セックスを好きみたいで……。ほとんど初めてのようなものだし、静かにしておこう。  そう思うけど、あまりにも瀬川の行動が丁寧で、もどかしくてたまらない。  瀬川は穏やかで……。そういえば、怒ったところなんて見たことがないな。  利用されるのはうんざりだ、と不満を漏らしたあれぐらいだろうか。あれも怒っているというよりは、嘆きだった。  瀬川に勇ましい面があるなら、少し見てみたいと思う。  それでも、定期的な揺さぶりに身体の熱は高まっていった。瀬川の吐息も深くなっている。  俺は手を伸ばし、手探りで首を抱き寄せた。 「瀬川、気持ちいいよ」 「……良かった」  はっきりとは見えないが、ニコッと微笑む顔が浮かんだ。  あいにく今俺が見たいのは、そんな顔じゃない。どうすれば瀬川がより興奮するのか考えた。  美佐央みたいなやつが好きだったんだから……、きっと瀬川はMなのかもしれない。でも同じ路線で攻めたって、美佐央を思い出させるだけだろう。俺の趣味でもない。  俺は、同じ体勢のまま瀬川の腰を抱くように、足に力を入れる。 「どうしたの」  瀬川の声は、少し笑っていた。苦笑いというよりは、照れ笑いだ。腰は止まっていた。 「交流会から帰って……、隣にいたおまえがいないって毎日で……、俺も、変な感じだった。瀬川はよく喋ったし、その……やっぱり少し、寂しかったのかなって……。俺……」 「ほ……ほんと?」 「嘘じゃない」 「小竹くんって、そういう一面もあるんだね。考えもしなかった。……いつも、堂々としているから」 「……多少はな。少しは……。たまには、ってくらいだけど」 「……このセックスって、じゃあ……、同情じゃ……」 「瀬川、……賭けのことは保留にするって言ったよな。あの時の貸し、今使う」 「……え」 「もっとガツガツ来い。気遣わなくていいから。……全部受け止めてやる」  なんとか言い終えたものの、顔が熱くなるくらいに恥ずかしかった。電気がついていなくてよかった。 「小竹くんは……、そういうのが好きなの……? でも俺は」  まだ訝しがっている瀬川の、顎を掴んでキスをした。
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