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「まあ身長は高かったけどね。顔が地味すぎ。あのブラザーにコンプレックスを持つ叔母さんの気持ちわからなあい」
笑いながらビールを飲む真奈美を明美は軽くにらんだ。
「かっこよかったわよ、若い頃。すらっとしてて。それに優しかったからね」
亜美はむきになったように言う母のことを可愛いと思った。明美と洋一は恋愛結婚だ。
亜美は二人がどんな出逢いをして恋愛をしたのか尋ねたことがあったことを思い出していた。
明美も洋一もそんな話を娘たちにしたことはなかった。
亜美は自分と夫の出逢いや結婚までの過程を思い出しながら、両親のそんな時間を想像していた。
「お母さんも細かったよね? 今の半分?」
真奈美の嫌みなヒトコトに明美は真奈美を軽く小突く。
「倍にはなってないわよ」
答えながら、明美は饅頭に伸ばしかけた手を引っ込めた。
「でも、私の結婚式に来てた友達、お父さんのこと『かっこいい』って言ってたよ」
ビールを飲んだ亜美の言葉に、真奈美が噴き出した。
「あのとき? ヴァージンロードで何回も躓いてたじゃない」
明美はあの前日まで、自分が亜美の代わりになって何度もこの家の中を歩いたことを二人には言わなかった。
(あれは二人だけの思い出にするね、お父さん)
心の中で思いながら、明美は少し缶ビールを持ち上げてまっすぐに前を見つめた。自分の前のスペースの奥にある、饅頭が二つ供えられた仏壇に向かって。
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