第14話【二人きり】

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第14話【二人きり】

「ふふふーん」 「なんだか今日は随分と陽気だね。エリス」  姿見の前で鼻歌を歌っていたら、エアが話しかけてきた。 「だって。カリナだけでも楽しいのに。今日はアベルも来てくれるんだよ? 絶対楽しい日になるよ!」 「あ、ああ……そうだね」  今日はこの前約束した、三人でお菓子を食べにいく白竜の日だ。  約束の時間にはまだ少し時間があるけれど、あまりに楽しみでじっとしていられない。  そんなことを考えていると、部屋の扉を叩く音が聞こえてきた。 「すいません。エリス。ちょっといいですか?」  声はカリナのものだった。  どうしたんだろうと思いながら、扉を開ける。 「どうしたの? 約束の時間にはまだ少し早いと思うけど」 「それなんですが。実は今日のお誘い、都合が悪くなりまして。申し訳ないですが、今日はいけません」  中に招き入れながら用件を聞く私に、カリナがとんでもないことを言い出した。  まさか、今日になって来れないだなんて。 「え!? どうしたの!? 何か急用!?」 「ええっと。そうですね。どうしても外せない用事です。すいません」 「えー。そんなぁ。じゃあ、しょうがない。今日は諦めて、また今度の白竜の日にしようか? あ、アベルも来る予定だったんだけどね。予定合うかなあ……」 「いいえ! それはいけません! アベル様と行くのでしたら、どうぞ、お二人で!!」  私が言った言葉に、カリナが凄い勢いで返してきた。  カリナがこんな勢いよく喋るのは初めてだったので、私は目を丸くして驚いてしまった。 「あ、いえ。おすすめの甘味はまだまだありますので。今日はせっかくなので、お二人で行ってきてください」 「そう? じゃあ、そうしようかなぁ。あ、もし買って帰れるなら、カリナの分を買ってくるね」 「ありがとうございます。では、私は用事がありますのでこれで」 「うん。残念だけど、また今度ね」  それにしてもカリナが来れないのは残念だ。  そんなことを思ってふとエアを見たら、なんだか妙な顔付きでカリナの方を見ていた。 ☆ 「えーっと、この店でいいのかな?」 「うん。多分。カリナに書いてもらった道通りに来たし、お店の見た目も名前も書いてある通りだし」  カリナからもらったメモを頼りに、私とアベルは今回の目的のお店にとうちゃくした。  今回のお菓子の名前は【クレムブリュレ】、どんなお菓子なのか楽しみだ。 「ひとまず入ろうか」  そういうと、アベルは扉を開け私を通してくれた。 「ありがとう」  お礼を行って中に入る。  店内は簡素な作りで、テーブルも全部で四つしかなかった。 「ひとまず、座ろう。ここでいいかな」 「うん」  アベルに促されて、入口から一番奥にあるテーブルに座る。  すると店員が近付いてきて、注文を聞いてきた。  目的のお菓子の名前をアベルが告げると、店員は頷き奥に戻る。  そのやりとりを私はじーっと眺めていた。  今日のアベルの服装は、休みの日にもかかわらず、妙にしっかりしていた。  そういえば、何か荷物が入っていそうな小さな袋も持っていた。 「どうしたの? そんなにじっと見て」  私の視線を感じたのか、アベルが私に問いかけてきた。  なんて答えればいいのか分からず、私は一瞬考えた結果、思った通りの言葉を言うことに決めた。 「なんか、今日のアベルはいつも以上に素敵だなって」 「え!?」  私の言葉にアベルの頬が赤く染まる。  よく考えたら、今の言葉は少し不適切だったかもしれない。 『あーあ。エリス。君ってほんとアレだねぇ……』 『うるさいなぁ。アレって何よ。アレって』  エアに文句を返していたら、店員が戻ってきた。  トレイに乗せられたお皿を私とアベルの前に置いていく。 「それでは、ごゆっくりどうぞ」 「うん! ありがとう!!」  店員にお礼を言って、私は目の前に置かれた【クレムブリュレ】に視線を注ぐ。  白い陶器の器に入ったそれは、黄色と茶色のまだら模様をしていた。 「このスプーンですくって食べるんだね。あ、思ったより硬いのかな?」  私は皿の上に一緒に添えられたスプーンで【クレムブリュレ】の表面をつつく。  スプーンは中に入ることなく、美味しそうな音を立てる。 「いや、硬いのは上の部分だけみたいだよ」 「え? あ、ほんとだ」  アベルが自分の皿の中を見せながら言う。  スプーンで割られた上の部分は薄く、その中は黄色いクリームが入っていた。 「これは一緒に食べるのかな? じゃあ、食べてみようか」  そう言うと、私はアベルと同じように上の硬い部分を割り、かけらにしたそれと下のクリームを一緒に口へ運ぶ。  その瞬間、優しい甘さが口いっぱいに広がった。 「うわぁ……美味しい!」 「ああ。本当だ。美味いな。これ」  アベルも口に入れた味に満足したらしい。  間髪入れずに二口目を食べていた。 「ほんと美味しいねぇ。カリナも来れたら良かったんだけどね。残念だったなぁ」 「え? カリナが来る予定だったのか!?」 「うん。言ってなかったけど、本当は三人でくるよていだったんだ。でも、急に用事ができたって。あ、アベルなら用事があることは知ってるのかな?」 「あいつ……どうやって気づいたんだか……」  アベルが何か独り言のように呟いた。  何か変なことを言ってしまっただろうか? 「あれ? 私もしかして、変なこと言った?」 「いや、なんでもない。気にしないでくれ」  そんなやりとりの後、私たちは楽しく話しながら、【クレムブリュレ】を楽しんだ。  アベルの提案で、追加でハーブティまで堪能した。 「ふぅ……美味しかったぁ。楽しかったぁ。ねぇ、もしアベルが良かったら、時間が合う時だけでもいいから、またこうやって甘いもの食べに来ない? 今度はカリナもきっと来れると思うし」 「あ、ああ。そうだな」  食べ終わった後、私が言った言葉に、なんだかアベルは上の空のようだ。  顔がなんだかいつもより真剣な気もする。 「どうしたの? なんか心配事?」  気になって私が声をかける。  そんな私にアベルはすごく真面目な顔をして言った。 「エリス。大事な話があるんだ。聞いてくれ」
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