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第8話 新しい依頼
「・・・・・・リア、マリア。 起きなさい?」
(お母さんの声がする、優しくて、暖かくて、それでいて少し不機嫌そうないつもの声色)
目を開けたいのに開けられない。
何かでくっつけられているようだ。
唯一動く手を上に伸ばしてみれば暖かな頬に触れて思わず笑みを浮かべる。
するとゆっくりと目の前が明るくなった。
「マリアさん、あの・・・・・・起きました?」
目の前に居たのは苦笑い気味に微笑みかけてくるリューの姿でマリアは急いで手を離す。
「す、すみません! 寝惚けてしまって!!」
「起こしに来る為とはいえ女性の部屋に無断で入ったのは私ですから、気にしないで下さい」
(天使のような微笑み・・・・・・浄化されそう)
起きて早々に人が居たのは2回目か。
1回目は確かマスターが酔っ払ってしまった私に引き止められて添い寝したんだったな。
よく考えたらアレは普通に危なかった。
相手があのダラけたマスターだから良いが。
下に降りて来るようと告げて礼儀正しく礼をしてから部屋を出て行ったリューを見送り、マリアは普段の服へ着替えて息を吸う。
(今日は何も任務はないはずだけど・・・・・・もしかしなくても雑用? また雑用をさせる気?)
溜息をつきながら下の階へと降りれば中心にある机に、マスター、リュー、レイが居た。
椅子に座ればマスターは深刻そうに言った。
「実はお前らに殺人予告が来た」
「はい!?」
「・・・・・・ってのは嘘で、任務の依頼だ」
(よく考えたら確かにリューさんやレイさんに殺人予告する人なんて居ないか、そうだよね)
納得した気持ちになりながら耳を傾ける。
「ディヤ山脈に化け物が居るから退治してくれないかと頼まれたんだ、しかもリューとレイ二人を指名してきたから受けてくれるよな?」
「ば、化け物・・・・・・あ、あの! 私は指名されてはいないので辞退させてもらっても良い、」
「駄目に決まってるだろ」
「何でです!!」
「コイツら2人で行かせたら山が無くなる事もあるんだぞ、行かせられるか。 それに今回は俺もついていく事になったから安心してくれ」
(マスターさんが付いてくるってことはもしかして凄い任務!? 命が掛かってるとか!?)
ワクワクするような、少し怖いような。
そんな気分でマスターから差し出された依頼書を見ていれば不意にある言葉が目に入る。
《ランクB。 ディヤ山脈に潜んでいると思われる化け物を追い払うか殺して欲しい、キャンプをする事になるようなので準備をしておくように》
「あの、1日で終わる仕事じゃ・・・・・・?」
「山脈に入って早々に化け物が出て来るのなら終わるだろうが、それは100%ないだろうな」
「の、野宿って事ですよね? 何日?」
「天気とか体調とかになるだろうが短くて3日くらいじゃないか? 長くても1週間だろう」
(嘘でしょ・・・・・・1週間も野宿? 確かに前は行ってみたかったけど今考えたら大変だ!!)
食料も確保しなきゃならないし、飲み物とか、寝床とかも早く見つけなきゃならない。
考えただけでマリアはげんなりとした。
「そんな気張る事はない、肩の力を抜け」
髪に触れる大きな手は不思議と安心する物でしばらく撫でられていると少し落ち着いた。
(一緒に行くのはマスターだけじゃなくて他に2人も居るんだから大丈夫! しかもその2人はギルド内でも特に強くて優秀なんだから!)
よく考えれば対して怖くない。
今ここに居るのは万人を魅力する天使スマイルという技を身に付けているリューグナー。
そして悪魔の炎と呼ばれる全てを焼き尽くす真っ黒な炎を出してコントロールが出来るレイ。
──最強じゃないか。
「それにしても新人は意外と怖がりなんだな」
「怖いというか・・・・・・その、小さい頃に迷子になった事があって山とかそういう所は苦手なんです」
「なら手を繋いでてやろうか」
「いや、大丈夫です! 前の話ですし、きっと今は平気なので・・・・・・でも、ありがとうございます!」
そう言って微笑めば髪に触れていた手が頬に移動して確かめるようにそっと撫でられる。
「マスター?」
「っ、悪い──出発は明日だ、準備していろ」
焦ったように手を離して遠ざかっていくマスターの後ろ姿を見てマリアは首を傾げた。
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