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第9話 出会い
翌日。
ディヤ山脈、道中。
鬱蒼と生えている木や草からは透明な水滴がポタポタと落ちていて、さっきまでの大雨が嘘のようだとマリアは濡れた髪を見つめた。
(せっかく整えたのに・・・・・・しかも、あんなカッコ良い事を言っていたマスターは、リューさん達と先に行ってしまうし、本当に最悪だな〜)
そう言えば山脈に入る前に言っていた。
「この辺は少し危ないからな、迷子になるかもしれないから手を繋いで歩いてやろうか?」
子供扱いされているようで断ったけど繋いでおくぺきだった、そうすれば迷子は回避だ。
(お母さん・・・・・・私達が見た優しい化け物って誰なんだろう? 年齢的にリューさんやレイさんではなさそうだけど、彼等の他に、化け物、なんてあだ名で呼ばれている人なんて居ないと思うけど)
もしかして、悪魔の楽園に居ないのかな?
名前的に化け物が居そうだから入団してみたけどやっぱり間違いだったのかもしれない。
そう思っていれば、
「こんな所に人が居るなんて珍しい」
「う、わっ!?」
いつの間にか目の前に居た男性に驚いて思わず後退れば少し困ったような顔で謝られた。
(誰だろ、この人・・・・・・男の人、だよね?)
女よりも綺麗な肌を持ってるその男性は柔らかく微笑みながらマリアの髪に付いた葉を払う。
「もしかして迷子ですか?」
「うっ・・・・・・は、はい、恥ずかしいですが」
「恥ずかしがる事はないですよ、この辺は来たばかりの人には迷路のように見えるでしょうしね」
慰めるように髪を撫でられたマリアは頬を赤くしながらリュックを下ろして地図を見た。
(ここがディア山脈の入口だから・・・・・・)
「今居るのはここですね、だから抜けるにはここを少し歩かなければなりません。 君さえ良かったらですけど俺が途中まで送り届けましょうか?」
「い、いいんですか?」
「構いませんよ、こんなに可愛らしい方の案内を出来るのなら俺としてはラッキーな方ですから」
「可愛ら・・・・・・な、なら、お願いします!」
まるでリューのようにサラッと恥ずかしい言葉を言ってくる男性に戸惑いながらも、マリアは地図を手に鬱蒼とした森を歩き始めた。
(この辺の人なのかな? でもディア山脈の近くの村や町は化け物を恐れて出て行ったって聞いたんだけど。 誰か残っていたりしたのかな?)
若葉色の長めの髪、紫色の瞳、ミント色のパーカー、黒のハーフズボン・・・・・・そして柔らかな声色。
(しかもリューさんと似ているスマイルの持ち主)
少し開けた所に大きな切り株があって男性はそこに座ると軽く手をこまねき隣に座るように施す。
「どうかしましたか?」
「歩き過ぎると疲れるから休憩、こんな山道でバタッと倒れてしまったら大変でしょうからね」
それもそうかと隣に座れば置いていた手に大きな手が重なってマリアが思わず驚いていれば、
しばらくして耳元から流れてきた音楽を少しだけ聞くとマリアは驚いたように目を見開いた。
自然の豊かさ、生命の有り難さ、などを表す歌詞、柔らかく、だが時折鋭くなるような曲調。
『果てしない大空と広い大地、この世界に住んでいるのは人間だけではないわ。 動物、鳥、虫、不思議な生き物──その全てが世界に存在してる』
(良い歌だな・・・・・・ここで聞くと特に響く)
目を閉じれば聞こえてくる鳥達の囀り、まるで合唱でもしているようだとマリアは目を開ける。
「良い歌ですね、えっと、」
「ああ、自己紹介してませんね、俺はリーフです」
「私はマリアです。 本当に素敵な歌ですね、こうなんというか胸の奥がじんわり温まる気がします」
そう言えば男性──リーフは優しく微笑みながらパチンと指を鳴らして空から花の雨を振らせた。
赤、青、黄、紫、など色とりどりの花だ。
「マリアさんは何でここに来たんです?」
「えっと、そのギルドの任務で」
「ギルドに入ってるんだ? 意外だなぁ、てっきり表紙とかに良く乗ってるモデルさんだと思った」
「そ、そんな! 私には不釣り合いですよ!!」
この世界でのモデルと言えば絶世の美女と謳われているアベイユ。 あだ名は"桃色の天使"だ。
リーフは彼女を知ってるのか知らないのか特に興味がなさそうに「ふーん」と言うと次はうってかわり興味津々といった様子で問い掛けてくる。
「どうして、ギルドに入ったんですか?」
「それは・・・・・・お母さんとの約束で」
「お母様との?」
「はい、まだ私が小さい頃に私とお母さんを助けてくれた化け物さんが居たんです。 その化け物さんは直ぐに居なくなったんですが落し物をして」
「良かったら見せてもらっても?」
そう言われてマリアは隣に置いたリュックから小さな箱を取り出すとその箱をゆっくり開ける。
中には金色のロケットペンダントが入っていた。
ロケットを開けてみればそこには満面の笑みを浮かべている夫婦らしき男女が写っている。
寝癖のついた真っ黒な髪をした男性は少し困ったような顔をしているが、愛情の籠った眼差しで隣に立っている金髪の女性を見つめている。
「その化け物さんとやらにコレを返す為だけにわざわざ危険なギルドなんかに加入をしたんですか?」
「馬鹿に思えるかもしれませんけど私とお母さんはその人のお陰で生きてるんです。 だからどうしてもコレをあの化け物さんに返してあげたい!」
マリアはその為に悪魔の楽園に入った。
(あの人は化け物なんかじゃない、私とお母さんを身を呈して助けてくれた優しい化け物さんだ)
マリアは宝箱をリュックになおして再び鬱蒼とした森の中をリーフと一緒に歩き出した。
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