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第10話 恐怖のキャンプ
リーフの案内もあり無事にマスター達と会えたマリアだったが、お礼を言う前に居なくなってしまい代わりに1枚の紙切れがポケットに入っていた。
『俺の電話番号書いておくからギルドに帰った時にでも連絡して下さい、お礼はその時にでも』
綺麗な文字と下に書かれている文字を見て笑みを浮かべれば横からそれをスッと取られてしまう。
「俺達とハグれて寂しがってると思っていたのに男とイチャイチャしてたのか・・・・・・純情な奴だと思ってたのにな、本当は男たらしか、お前は?」
「ち、違いますよ! それに私が男たらしだったらマスターさんとリューさんは女たらしですよ!!」
「なんでレイは違うんだ?」
「レイさんは優しいだけです、マスターさん達とは違います! そもそも滅多に微笑みませんし!!」
そう言いながら紙を奪い取ってリュックに入れればぐしゃぐしゃと髪を撫でられ視線を上げる。
「まぁ、お前が無事で良かった。 な、リュー?」
「本当にそうですね」
──そこには穏やかな笑みを浮かべるマスター達の姿がありマリアは「うっ」と言葉を詰まらせた。
(マスターさんとリューさんはわざとやってるのか無意識でやっているのか分からない、からかってくるし、かと思えば今みたいに優しくしてくれる)
良い人には違いないんだけど、とマリアが心の中で思っていれば右の頬を何かが勢い良く掠めた。
「おー、来たきた! ありがとな、新人!!」
訳が分からないままに褒められて首を後ろに向ければそこには不気味・・・・・・いや、気持ち悪い生物が宙に浮いててマリアの顔から血の気が引いた。
宙に浮いているのは、動物でも、虫でも、鳥でもなく、目玉に手足のついた珍妙な生き物だった。
「無理無理無理! 私は虫が苦手なんですって!」
「コイツはアイワンだ! いつも洞窟に引きこもっていて出て来ないが女の匂いを嗅ぐとすぐに出て来るんだ、良く引き付けてくれたな新人!!」
アイワンと言う名前のモンスターはマスターやリューには目もくれずマリアの方へと向かう。
だが、その選択はアイワンにとって命取りだ。
「っ〜〜! 気持ち悪い!!!!」
その叫びと共にアイワンの特徴とも言える大きな目玉にマリアの拳がめりこんで吹き飛んだのだ。
これには、マスター、リュー、も呆然とした。
まともに食らってしまったアイワンは、フラフラと酔っ払いのようにしばらく宙を彷徨い続けていたが、途中で命尽きたのか地面へと落ちていく。
その音で我に返った2人は肩を震わせながら顔を伏せているマリアの元へとそっと近付いていった。
「お、おい、怪我してないか?」
「マリアさん?」
気を遣うように伸ばされたリューの手を勢い良く弾いてから、ゆっくりとマリアは顔を上げた。
「マリアさん、涙が、」
マリアの目はうっすらと潤んでいて、リューがもう一度手を伸ばそうとすれば鋭い瞳に睨まれる。
「虫は苦手だって言ったじゃないですか! それなのにどうして止めてくれないんです!? リューさんなら絶対に止められたのに、酷いですよ!!」
「す、すみません、でした」
気迫に押されてリューは思わず少し後ずさると深々と頭を下げながら謝罪の言葉を口にした。
そしてマリアは次にマスターへと目を向ける。
「マスターさんはもっと酷いです! 私を囮の為に使うって・・・・・・そんなに私が嫌いなんですか!?」
「マリア、悪かった。 だがいくら怒っていても俺がお前を嫌いだなんて考えるな、一瞬でもだ」
真剣そうな顔でそう言われて熱くなっていた感情が落ち着く感じがしてマリアは深呼吸をした。
マリアが深呼吸をしていればマスターは本当に困ったように眉間に皺を寄せながら涙を拭ってきていて思わず「ふふっ」と鼻声で微笑んでしまう。
「マスターさんが困ってる」
「ああ、お前に泣かれると対応に困るんだ」
最後にぽんぽんと頭を撫でられ、その頃には流れていた大粒の涙は目の奥へと引っ込んだ。
そしてどこからか香ばしい香りが漂ってくる。
「・・・・・・焼けた」
同時に嫌な呟き声が聞こえてくる。
恐る恐る振り返ればそこには、右手にアイワン、左手を右手に添えて自分の炎で燃やしている、というお手軽なバーベキューをしているレイの姿。
(えっ、悪魔の炎と呼ばれてる炎を、バーベキューの火の代わりにしてるの? それって大丈夫?)
無駄遣いと責めるべきか、便利だと褒めるべきか。
レイは持って来ていたナイフで平然とアイワンを4等分に切っていて思わず顔が少し引き攣った。
「・・・マスター」
「おう、サンキューな」
「・・・リュー」
「ありがとうございます、レイ」
「・・・マリア」
「え、えっと、どうも?」
差し出されたアイワンの肉片はこんがりミディアム程度に焼かれていて匂いだけなら美味しそう。
(でもやっぱり目玉は辛い・・・・・・!!!)
「・・・・・・食べないのか?」
かと言って好意でやってくれたのであろうレイからの贈り物を無下にする事は、さらに出来る訳もなく、マリアはそっと口を開けて1口食べた。
(ん、あれ? 意外とイけるかも、あのアイワンとかいう生き物だと思わなければかなり絶品!)
思いの外の美味しさに思わず目を見開けば皿の上にギョロッとした目が乗っていて顔を顰める。
(食べないと駄目だ、そうキャンプなんだから!)
そして目をつぶり肉を手で掴むとマリアはお菓子でも食べるようにアイワンを口の中に放る。
こうして少し早めの夜食を終えたのだった。
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