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第13話 天使の忠誠
「さぁ、終わりましたよ!」
そう言ってマリアの方を見たリューの手にはさっきまで生きていたスリンの生首が持たれている。
(終わりましたよ、ってなに!? スリンの生首を持ったまま天使スマイル浮かべないで下さいよ!)
着ている真っ白なコートにはどうやったのか血の一滴すらも付いておらず、リューはリュックから大きな袋を取り出すと生首をその中に入れた。
そしてリュックの中に袋を押し込み隣で眠そうにウトウトしているレイの顔に付いた血を拭う。
「また酷く汚れましたね、後で洗濯しましょう」
「・・・・・・ああ」
(いや、汚れ過ぎじゃないですか!? どうしたらあんな血だらけになるんです、まるで血のプールに入ったみたいに血だらけじゃないですか!)
真っ黒なコートでも分かるほどに濃い色をしてる血がレイの、顔、身体、腕、足、に付いている。
マリアが顔を引き攣らせていれば何も言うなとでも言いたげに頭にポンと大きな手が乗せられた。
「レイ、先にお前をテントに送ってやる」
「・・・・・・どうも」
眠たそうにしながらレイがマスターの服を掴めば前触れもなく一瞬でその場から消えてしまった。
(私が来る時に使った魔法かな・・・・・・凄い)
それなら来た時と同じで5分くらいは暇。
どうして暇を潰そうかと考えていればいつの間にか目の前まで来ていたリューが、色とりどりの綺麗な花束を差し出してきて、思わず微笑めば、
「マリアさん、貴方は私やレイが正真正銘の化け物だと知った今でもチーム組みたいと思いますか?」
そう言って諦めたような笑みを浮かべた。
マリアは差し出された花束を受け取ると困ったような表情をしながらリューの目を見つめ返す。
「正直に言うと怖いです、いつかリューさんやレイさんに殺されるんじゃないかと肝が冷えました」
「・・・・・・普通はそうですよね」
「でも、2人は仲間ですから! 仲間が強いなら安心して背中を預けられます、だから今でもリューさん達とチームは組みたいと思っていますよ」
朝特有の冷たさと温かさの混ざった風が吹く。
リューの真っ黒な髪の毛が風に吹かれて、隠れかけていた金の瞳がマリアの顔をしっかり捉えた。
片膝を折り地面に膝をつくとリューは驚いた様子のマリアの右手を取ると手の甲に軽く口付ける。
「なら私達は貴方が信じている限り、可愛らしいお姫様を守る騎士になります。 どんな化け物や生き物からも守る強く立派で優しい騎士に──」
(んっ・・・・・・これは刺激が強い! 騎士と言うよりも天使に見える!! だって羽が見えますもの!)
柔らかく微笑む天使ことリューの背中に立派な白い羽が見えてしまいマリアは顔を真っ赤にする。
それと同時に首根っこを掴まれる感覚がした。
「何をデレデレしてるんだ、気持ち悪い」
「女の子に気持ち悪いって失礼ですよ! そんなんだからマスターさんはモテないんですから!!」
「お前こそ失礼だろうが」
頬を軽くつままれたマリアはマスターを睨み付けたが生憎ながら効果はなく、彼からしてみれば、子猫に唸られてる、くらいの感覚なんだろう。
数分間ああだこうだと言い合いをして。
やっとの事で折れたマリアが不本意そうな様子で謝った事でその場は丸く収まった・・・・・・と思う。
テントまで送ってもらったマリアは言われた通りに荷物をまとめながら中で寝てたレイを起こす。
「レイさん、そろそろ帰るそうですよ」
「・・・・・・分かった」
「良かったら荷物持ちましょうか? 眠いのなら途中途中で休憩しながらでも良いでしょうから」
そう聞いてみたがレイはゆるゆると軽く首を横に振ると「大丈夫」とだけ言ってテントを出て行く。
(レイさんには嫌われてる気がする、いや、嫌われてはいないみたいだけど・・・・・・こうリューさんの時とは違って警戒されているような感じがする)
リューの場合はさり気なく一線を引くタイプ。
表向きはニコニコとしていてコミュニケーションも問題なさそうだが、自分の中に踏み込ませない。
レイの場合は完璧に距離を置くタイプだ。
人にはそれぞれのパーソナルスペースがあるのだから気を付けよう、と思いながらテントを出る。
「新人、置いてかれたくないなら早く来い」
「分かってますよ!」
マスターの声に不満気に返事を返すとマリアはリュックを背負ってギルドへの帰り道を歩いた。
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