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第16話 新しい友達
午前9時11分。
マリアは大慌て・・・・・・とまではいかないが、多少焦りながら、約束の場所へと移動していた。
(よりにもよって寝坊するなんて! 確かに緊張して眠れなかったけど・・・・・・確かに、明日どうしよう、とか色々と考えはしていたんだけど!!)
溜息をつきながら小走りで約束の噴水の場所まで行けば若葉色の髪が見えて、急いで駆け寄った。
「す、すみません、リーフさん!」
「マリアさん・・・・・・ふふっ、髪が乱れてるよ」
優しく髪を撫でられると同時に顔がますます赤くなるのが分かってマリアは思わず顔を俯かせる。
(待たせた挙句に恥ずかしい所も見られるなんて本当に私ってツイてない・・・・・・リーフさんは時間通りにカッコ良い服装で来てくれていたのに)
そう思っていれば、
「遅れた事を気にしてるなら心配はいらないよ」
「え?」
「実は僕も緊張してしまって・・・・・・昨夜はあまり眠れなかったので早く来ただけ。 それにマリアさんを待ってる時間は凄く楽しいと感じましたから」
恥ずかしそうに告げられた言葉は自分に責任を感じさせない為だと分かっていても嬉しかった。
優しくて、穏やかで、カッコ良い人。
こんな人と一緒に出掛けられるなんてどれだけ幸せなんだろうとマリアが考えていれば、そっと手が伸びてきて包むように手の平を握ってきた。
「迷子にならないように・・・・・・ってのは建前で個人的に手を繋ぎたいだけなんだけど、良いかな?」
「は、はい」
(お母さん以外と手を繋ぐの初めてだな、こんなにドキドキするものなんだ。 なんか変な感覚だな)
繋いだ瞬間こそ心臓がバクバクと飛び出そうなほどに跳ねていたが、次第に慣れてきたのか、落ち着いてきて、やっとリーフの話に耳を傾けた。
「ああ、緊張して言い忘れてたな」
「なんです?」
「その服とても素敵だと思う、可愛くて」
「っ・・・・・・あ、ああ、ありがとうございます」
リュー、レイ、ギルドの皆。
皆に同じ事を言われたはずなのに何故かリーフさんに言われると恥ずかしくなり曖昧に微笑んだ。
「マリアさん、あれ食べに行きません?」
そう言われてリーフの視線の先を辿ればそこにあったのは移動販売のアイスクリーム屋だった。
「良いですよ、食べましょうか」
近付いてメニュー表を見た2人は少しの間迷ってから1つずつ選んでから注文をした。
暑さで溶けないようにとカップに入れられているアイスを受け取った2人は、近くにあったベンチに腰掛けるとじっとアイスを見つめながら言う。
「そ、それって、何味なのかな」
「私のはチョコ唐辛子味ですけど見た目が噴火寸前のマグマみたいで、何だか食べづらいですね」
チョコはどこに行ったのか完璧に真っ赤な色をしているアイスに、そっとスプーンを差し込む。
「いただきます」
そして、勢い良く1口目を食べた。
食べる前に対して表情を変えていないマリアの様子を伺うようにして「どう?」とリーフが問えば、
「不味いですけど癖になる味ですね、なんか不思議ともう一口が食べたくなる・・・・・・リーフさんは?」
「僕のはミックス味って奴なんだけどマリアさんと同じで、不味いけど、癖になるって感じかな〜」
「少し食べてみても?」
「なら、食べさせ合いっこにしよう」
ニコニコとした顔で言われて互いのスプーンで相手のアイスを取って口元へと移動させていく。
そして──ぱくり。
マリアはミックス味。
リーフはチョコ唐辛子味。
互いに味わうようにして食べると、どちらからともなくそっと顔を寄せてから額を触れ合わせた。
そして、
「「不味い!!」」
と、満面の笑みを浮かべながら言う。
分かってはいたけど想像以上の不味さだと笑う2人は、通り過ぎる人々に奇異の目に晒されながらも、互いに食べさせ合い楽しそうに笑っていた。
それから、服屋で服を選んだり。
試食コーナーの物を食べてみたり。
雑貨屋でネックレスを買ったり。
・・・・・・などと色々な事をしている内に時間が過ぎていき、気付けば既に外は夕方へとなっていた。
「本当にここまでで大丈夫?」
「はい、ありがとうございました!」
じゃあ、と言って帰ろうとすればギュッと手首を掴まれてマリアは困ったように少し眉を寄せた。
「その・・・・・・今日は凄く楽しかった、マリアさんと一緒に居ると、楽しくて、幸せだって思えた」
さっきまでとは違う、小さな声。
「多分君も楽しんでくれてた、よね?」
「は、はい、凄く楽しかったです」
「良かった・・・・・・それで、もし、良かったらなんだけどまた出掛けない? 時間が合う時で良いから」
「? いいですよ?」
「本当!? じゃあ、また近い内に連絡するから」
(良く分からないけど喜んで貰えて嬉しいな)
嬉しそうに微笑みながら去っていく後ろ姿に手を振りながら、マリアは身体を反対側へと向ける。
そしてギルドへの道のりを上機嫌で歩いた。
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