20人が本棚に入れています
本棚に追加
第17話 氷の結晶
任務をこなし、少しだけ練習をして、夜にはリーフと話す。 そんな日常を続けていた時の事だ。
いつも通りに騒がしい悪魔の楽園のカウンター席でフルーツジュースを飲んでいたマリアは、妙な寒気を感じて身体を震わせた。
「あの、なんだか、寒くありません?」
「そうかしら?」
「風邪かな・・・・・・最近疲れてるし」
そう思いながら席を立って歩いていればギルドの入口から、なにかが飛んで来てるのが見えた。
反射的にマリアがしゃがめば、
──バキバキッ!
と、聞こえてはならない音が上から聞こえる。
恐る恐る顔を上げてみればそこには鋭く尖った鋭利なつらら・・・・・・氷の矢が突き刺さっていた。
「見ない顔だな、新人か? いや、貴様は悪魔と仲良くしているという魔女だな、話は聞いているぞ」
凛とした声と共にギルドの扉が開けられる。
ミント色の髪、冷たい瞳、左目から右頬まで伸びている大きな傷、そして歩く度に地面が凍った。
その姿を見るなり騒がしかったギルド内は一気に静まり返り、男の歩く音だけが静かに響いている。
「相手が魔女とはいえ自己紹介しないのも変だろうから特別に紹介してやろう。 俺は氷の結晶のマスターであるゲール様だ、覚えておけ」
「は、はあ、宜しくお願いします?」
(ビックリした・・・・・・なんなのこの人? いきなり入って来たかと思えば私の事を魔女って呼ぶし)
冷たい瞳で見下ろされながらそんな事を考えていれば、遠慮なく手が伸ばされて、髪先に触れる。
その瞬間──ゲールは入口へと飛んで行った。
「お久しぶりですね、ゲールさん」
いつの間にか目の前に来ていたリューに離れるように言われてマリアは勢い良く違う方に離れた。
「っ、この、悪魔っ!」
叫び声と同時に手を前に出したゲールの手先からさっき飛んで来たのと同じ氷の矢が飛んで来る。
無数に飛んで来る氷の矢に乗り渡っていくリューの姿は、まるで、綱渡りをしてるピエロのようだ。
(あの笑顔はまだ楽しくない時の笑顔だな)
一緒に行動するようになって分かった事がある。
リューは楽しければ楽しいほどに笑みを深める。
未だにスリンと戦った時以上の笑顔は見れてない。
今回は少し面倒くさそうだ。
「ギルドの人達には指一本触れるな、と私は伝えたはずですよね? 警告の為に傷付けてあげたのに」
そう言ってリューはにっこりと微笑んだ。
(あれはリューさんがつけたのか・・・・・・でも仮にもギルドのマスターに傷を付けられるなんて凄い)
「あの時は貴様を舐めていたからな、だが今回は本気でやらせてもらう。 覚悟は良いか、悪魔!」
「どうせ私が勝ちますよ?」
「傲慢悪魔め、調子に乗るなよ!」
「はいはい、外でやりましょう」
(め、珍しいな・・・・・・リューさんが本気で嫌がっているというか面倒くさがってる。 確かに面倒くさそうな人だけどあんな露骨に嫌がらなくても)
今にも溜息をつきそうな様子でゲールの首根っこを掴んでから物を投げるように外へ投げ付けた。
「あ、あれ、放って置いても?」
「あはは、大丈夫! 私達じゃ彼に敵わないけどリューと彼なら100%リューが勝つに決まってる」
「100%・・・・・・!」
「あのリューと互角に渡り合えるのはマスターとレイくらいよ、私達には数秒も抑える事が出来ない」
「戦う所を見た事あるんですか?」
「ええ、あの3人の戦う所を見たら大抵の事は怖くなくなるわ・・・・・・今でも思い出したら寒気がする」
それから少しすると扉からリューが帰ってきていつも通りのニコニコ笑顔で「終わりました」とだけ言って上の階へと戻って行ってしまった。
(も、もう終わったの? 音しなかったけど?)
そう思いながらそっと扉を開けて外を見てみればそこには大きな氷の塊が幾つか外に建てられてた。
「リューは完全無欠の反撃を使ったのね」
「な、なんですか、それ?」
「自分に向けられた攻撃全てをコピーしてそれを倍にして相手に跳ね返すのよ、私も仕組みはよく知らないんだけど・・・・・・本当に凄いわよねぇ〜」
(まさか初めてギルドに来た時に野原が半分くらい燃えてたのって、リューさんの仕業だったんだ)
呆れ半分、感動半分。
そんな気持ちで中に戻れば、真ん中の机に皆が集まっていてマリアは近付いてそっと覗き込んだ。
「懐かしいなぁ〜、この頃のアイツらはまだまだひねくれてて騒がしかったよな〜〜?」
「ん? それって誰なんですか?」
皆が見ていたのは写真だった。
写っているのは金髪の綺麗な男の子と、黒髪の顔の見えない子で、互いに相手の顔を掴んでいる様子から察するにどうやら仲が悪いらしい。
(後ろで面倒くさそうにしてるのがマスターさんって事は分かるけど、この2人は誰なんだろう・・・?)
「ああ、マリアちゃんは知らねぇか・・・・・・こっちの金髪の奴がリュー、こっちの黒髪の奴がレイだ」
「えっ!?」
「めちゃくちゃ仲が悪かったんだぜ?」
今では信じられないその様子にマリアが思わず固まっていれば皆が懐かしそうに話し始めた。
最初のコメントを投稿しよう!