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第1話 悪魔の楽園
石造りの家々が並ぶ商業都市アイヘス。
その中央を流れる運河沿いを──金髪をなびかせ、お世辞にも農満といえない平らな胸を張って運河の沿いを歩くひとりの少女が居た。
いや、少女というには、少々、年がいってるような気もするが女性というにはまだ若い。
ミニスカートから伸びる綺麗な足、くびれている腰から色気を感じないのは何故なのか。
「今日は良い天気だな、凄く気持ち良い〜!」
グーッと両手を空へと伸ばし、少女は、さんさんと降っている太陽の光を全身に浴びる。
「元気なお嬢さんだ、この辺の者か?」
運河を行っていた小船が止まりその船上から少女──マリアに男性から声が掛かった。
「私はマリア、遠くの小さな街から来たばかりなんですけど・・・あの、道に迷ってしまって」
「どこに行きたい?」
「悪魔の楽園って言うギルドに」
マリアの言葉に一瞬驚いたように目を見開いたが男性は直ぐに笑みを浮かべ指を差す。
指の先には綺麗な野原が広がっていた。
「ほら、あそこに野原があるだろ? あそこに行くと嬢ちゃんが探してるギルドがある」
「ありがとうございます!」
「にしてもあの問題ギルドに何の用なんだ?」
苦笑いを浮かべながら男性が言えばマリアは同じくぎこちなく微笑みながら言った。
「実は・・・・・・入団に」
「嬢ちゃんが? 無理無理、あそこはとんでもない化け物達が揃ってるんだぞ? 嬢ちゃんみたいな女の子が言ったら怪我するだけだ」
男性は「悪い事言わないから止めとけ」とだけ言い残すと手を振りながら行ってしまった。
残されたマリアは大きく溜息をつく。
(噂には聞いてたけど化け物揃い・・・・・・そんな所に私が行って大丈夫かな〜? いや、でもここまで来てお母さんとの約束は破れない!)
よし、と言って強く拳を握り締める。
そしてさっきの男性に言われた通りに大きな野原に到着したマリアは思わず唖然とした。
「な、なんなの、これ・・・・・・?」
あっちからは見えていなかったがこの大きな野原の半分ほどは全て燃えてしまっている。
ここで火災でも起きたのかと思っていれば、
「これはうちの天才がやったものだ」
どこからかやって来た男性は煙を吐き出し携帯灰皿に煙草を押し付け消す。
寝癖の着いたくしゃくしゃの黒色の髪、少し長めに伸びた前髪の部分には白のメッシュがかかっていて、目は怠そうに半開け状態だ。
「天才・・・・・・ですか?」
「今日はどうも不機嫌でな、無意識にだろうが炎を出しながら歩いていたせいでこの有り様」
酷いもんだろ、と溜息をついた男性はどこか困ったような面白そうな表情をして微笑む。
「悪気がある訳じゃないから困るんだ、怒るに怒れないだろ? 悪気がない奴を怒──ん?」
穏やかな顔付きで話していた男性は急に元のやる気のなさそうな顔に戻ると大きく欠伸をしてからグイッとその顔を近付けて来た。
何を考えているか分からない半開きの黒色の瞳を見てると何だか引き込まれそうになる。
(もしや、この感覚が恋──)
「・・・・・・お前誰だ? なんで俺と話してる?」
マリアのその考えは一瞬で砕け散る。
(こんなボーッとしてて記憶能力に問題がある人に恋なんてしない! ぜーったいに、ない)
分からないとでも言いたげに首を傾げていた男性は顔を離してガシガシと後頭部をかく。
そして少し背を曲げて手を差し出してきた。
「俺は悪魔の楽園のマスターのレイ・・・・・・いやアインだったか・・・・・・? まぁ、覚えてはいないが多分そんな感じの名前なんだと思う」
(名前も覚えてないって。 なにかの病気とか魔法にかかってるんじゃな・・・・・・って、え?)
今この男性は何と言った?
「悪魔の楽園のマスター・・・・・・?」
「ああ、なんだ。 お前は入団希望なのか?」
「は、はいっ!」
「ふーん・・・・・・良いよ、別に。 このギルドは、野郎の割合が多いからむさ苦しく感じるかもしれないが女も何人か居るから安心しろー」
付いてこい、と言うなり焦げた野原を歩いて行く男性ことマスターの背後を追い掛ける。
(え、本当にマスター? この人が??)
僅かに疑問を持ちつつ歩いていれば目の前に大きな建物を見つけ思わず「わぁ」と声を漏らせばマスターはふっと口角を上げ微笑んだ。
「お前・・・・・・可愛い奴だな」
その柔らかな笑みと言葉にマリアはしばらく固まると少ししてから顔を真っ赤に染める。
「い、いいい今なんて!!!?」
「ん? 何か言ったか・・・・・・まぁ、入れ」
大きく欠伸をしながら木製の扉を開けたマスターは視線で中に入るように施してくる。
(変なマスターだな・・・・・・怠そうにしてるかと思えば機敏に動いたり、無表情かと思ったら急に優しい顔付きで可愛いって言ってきたり)
女たらしなの優しいだけなのか分からない。
さっきのが嘘のように怠そうにしているマスターの開けている扉を見てから生唾を飲む。
これから起こるであろう波乱万丈の出来事にドキドキして心臓が壊れそうになりながらもマリアは息を整えると部屋の中へと入った。
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