20人が本棚に入れています
本棚に追加
第2話 化け物の帰還
マリアの想像はこうだった。
タチの悪そうな不良みたいな人達が沢山居て酒ばっかり飲んでる・・・・・・そんなイメージ。
悪魔の楽園という名前からして悪魔みたいな人が沢山居るんだろうなーと思ってたのに、
「お、マスタ〜、新入りですかい?」
「すげぇ、美人!」
「新人ちゃん、お菓子あるから食べない?」
入って早々に歓迎するようなことを言われて思わず唖然としてれば、髪に手が置かれ、それがマスターの手だと気付いて視線を横に向ける。
「おい、矢継ぎ早に声をかけるな。 お前らのような馴れ馴れしい奴らに慣れてないんだぞ」
呆れたように溜息をついたマスターはそう言うと群がってきていたギルドメンバーの頭を軽く叩いた。
「とにかく、丁重に扱え。 以上だ!」
それだけ言うとマスターは入り口から入ってすぐ左横にある階段を歩いて行ってしまい、マリアは視線を前に向けると軽く微笑んだ。
「えっと、私はマリアです! まだ分からない事とか沢山あるのでご指導をお願いします!」
そう言ってマリアは深く頭を下げる。
目をぱちくりとさせていたギルドメンバーは互いに顔を見合わせて面白そうに笑った。
「ははははっ! そんな気張るなって、ここはそこまで大層なギルドじゃねぇんだからな」
「そうそう、名前こそ何か悪役っぽいというか物騒だけど基本的には何でも自由な所だよ」
「飲めるし、食えるし!」
「どんだけ騒いでも文句は言われねぇ、それがこの悪魔の楽園だ! 覚えておけ、新人!」
ばしっと加減のない力で背中を叩かれマリアが苦笑いを浮かべていれば、ぐいぐいと腕を引かれてバーのカウンターらしき所に来る。
そして差し出されたのは好物である動物型のチョコレートでそれをぱくっと口に含んだ。
「ん〜、美味しい!」
「ここでなら幾らでも食べられるわよ」
「本当に!? 嬉しいです!!!」
クスクスと笑い声が周りから聞こえながらもマリアはイノシシ型のチョコを口に含む。
一口噛めばチョコの中からとろりとしている生チョコが溢れてきて、思わず頬を緩ませれば
周りが騒がしくなりお祭り騒ぎになった。
新人の歓迎会、という名のパーティらしい。
それから1時間ほどたった頃だったか。
皆と話していればどこからか物凄い叫び声が聞こえてきて「な、なんなの?」と言うと同時に木製の入口の扉が一気に吹き飛ばされた。
扉には目を白目にして倒れてる男の姿で無くなった入口から二人の青年が歩いてくる。
「手加減をしろ、と言ったでしょう?」
「・・・・・・した」
「扉を壊したじゃないですか」
「・・・・・・壊れてたんだ」
「馬鹿な事言わないでくださいよ、どう見ても貴方のせいで壊れているじゃないですか」
ギルドの中に入って来たのは、黒髪の青年と白髪の青年で、扉に張り付いた男を見下ろしながら話していて顔が引き攣ってしまった。
(え・・・・・・ギルドの人かな? 黒髪の人の方は何だか穏やかそうだけど白髪の人は少し怖い)
白髪の青年は大きく溜息をつき「寝る」とだけ言うと欠伸をしながら2階へ上がっていく。
そして黒髪の青年は困ったように微笑んだ。
「すみません、また壊してしまって・・・・・・この男性がレイを煽ってきて戦闘になってしまい」
「ったく、良い加減にしろよ! お前らがドタバタするせいで新人が怯えてるじゃないか!」
「新人?」
不思議そうな様子で白髪の青年は辺りを見回すとマリアを見て困ったような顔で手を差し出して来た。
「お見苦し所をすみません・・・・・・私はリューグナーと申します。 さっきのはレイ、一応私の相棒なんですが力加減が苦手な人なんですよ」
「は、はあ。 私はマリアです、えー、宜しくお願いします・・・・・・リューグナーさん?」
「長くて言い辛いでしょうからリューと呼んでください、宜しくお願いします、マリアさん」
ニコと微笑む姿はまるで天使のようだ。
マリアはその笑顔に思わず見惚れそうになりながらも差し出された手を握り、握手を交わす。
リューは「レイの様子を見て来ます」と言って2階へと上がっていって、姿が見えなくなると同時にギルド内の皆から深い溜息が零れる。
「最悪だ・・・・・・。」
「また、やりやがったんだな」
「帰ってくるの1週間後のはずだっただろ」
さっきまで騒いでいた人達が一気に落胆した様子になってマリアは「どうしたんです?」と隣の席で飲んで居た男性に聞いてみれば、
「アイツらは歩く厄災なんだ」
と、顔色を悪くしながら言った。
(歩く厄災? 確かにいきなり扉を壊したけどリューって人の方は優しそうだったのに)
「行く先々で物を壊すのは当たり前、必要さえあれば人を殺す事も厭わない・・・・・・化け物のコンビなんだよ、化け物二人が帰ってきた」
(人を殺す事も厭わない・・・・・・。)
「と、言っても面白い奴だけどな! 戦闘の時とかは絶対に近付きたくないってだけだ!!」
「そうそう! アイツら根は良い奴なんだよ」
「修理費が半端じゃねぇしな〜」
乾杯!とジョッキを合わせて飲み始めた皆に安心半分、呆れ半分、でマリアは息を吐く。
少しイメージは違ったものの、本当に自分が化け物ギルドと呼ばれてる悪魔の楽園に居るということを実感して気を引き締め直した。
最初のコメントを投稿しよう!