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第4話 マスターの秘密
騒がしく、だけど幸せな、そんな半日を過ごしたマリアは朝の10時になっても寝ている。
正確には夢うつつな状態で天井を見ている。
(このギルド最高・・・・・・寝心地が良いベットをくれるなんて神様だよね。 前住んでた家はベットはなかったからなのか凄く幸せな気分)
ずっと、ここで寝ていたいような気分。
今日は予定もないから寝ていて良いかな、とマリアは考えながら視線を左隣へと移した。
「ッッッ〜〜!!!!!?」
そして悲鳴にもならない声をあげる。
立派な胸板、綺麗に割れたシックスパック、どちらもここにあるべきではないものだ。
(え、なに!? どういう事!?!? 昨日は確かリューさん達が任務に行ったのを見送りそれから適当にジュースを飲んだりしていた)
そこではたと気付く。
(あれ? 私自分で部屋に戻ってない、それに部屋とかマスターさんに教えてもらってない)
次第に覚醒してきた頭はフル回転でグルグル回っていてとりあえず離れようともがけば、
「ん・・・・・・こら、動くな・・・・・・ミシェル」
するりと大きな手が服に侵入してきて思わずマリアは大きな悲鳴を上げて突き飛ばした。
つまり、ベットから突き落としたのだ。
「っ〜・・・・・・こら、何する」
「ん?」
ドンッという鈍い音と共に落ちると共に何か聞き覚えのある声が聞こえてきて、マリアはそっとベットから床の方へと視線を向ける。
黒色の髪に白のメッシュ、やる気のない目。
どこからどう見てもマスターだ。
身体を起こしたマスターは床にあぐらをかき後頭部を撫でながら視線をマリアに向ける。
「おはよ、新人」
「マスターさん!? 何で私と同じ部屋で同じベットで上半身裸で居るんですか!?!?」
「朝からキンキンうるせぇ・・・・・・で、お前昨夜の事覚えてないんだな? 思い出せないか?」
(確か私は眠れなかったからずっとジュースを飲んだりしてたんだよね、そして何だかフラフラしてきてカウンターで寝ていた、はず)
思い出があるのは多分そこまでだ。
マリアはズキズキと痛む頭を押さえていれば大きな溜息が下の方から聞こえてくる。
「お前、酒飲んでたんだよ。 多分ジュースと間違えて少し飲んで酔っ払ってダウンしてた」
「お酒・・・・・・」
そう言われれば頭痛がするのも納得。
「そして俺が通りかかった時に夜の女みたいに色っぽい目で見ながらベタベタとくっ付いてきたから仕方なーく俺が部屋まで運んだんだ」
(い、色っぽい目って・・・・・・私は一体マスターさんに何をしたんだろう。 恥ずかしい!)
「ベットに降ろしてやったら、行かないで、と言われたから隣で寝てやっただけのことだ」
(無理! もう死にたい、最悪!!)
お酒を飲んでいたからと言いマスターさんにそんな事を言うなんて恥ずかくて堪らない。
マリアは湯気が出そうなほどに顔を真っ赤にすると何度も何度も頭を下げながら言った。
「すみません、すみません・・・・・・!!!!」
「別に謝る事はないぞ。 年頃の女のベットで服を脱いで寝た俺も悪かったからな、お互い悪かったって事でとりあえず終わらせよう」
「は、はいっ!」
(良かった・・・・・・何も無くて。 これからは絶対に酒を飲まない、絶対に一口も飲まない!)
固く心に誓っていればマスターが落ちた服を拾おうとマリアに背中を向ける。
(なんだろ、あのマーク・・・・・・?)
マスターの背中にはびっしりと何かのマークらしき紋章がはいっていてマリアは首を傾げたが特に気にする事もないとベットを出る。
「ああ、お前今日が初任務だ」
突然の言葉にマリアは振り返った。
「え、聞いてません!」
「言わなかったか・・・・・・あー、悪いな」
「良いですけど二人は任務に行きましたよ?」
「何言ってんだ、お前がフラフラ酔い潰れてた頃には終わらせて帰ってきてたはずだが」
(そんなに早く任務を終わらせるなんて絶対に有り得ない、もしかして、サボったんじゃ、)
「リューはクソ真面目だからそれはない」
心の中で言った疑問を返され言葉に詰まる。
その時何の前触れもなくマスターがギュッと抱き締めてきた時聞こえた言葉を思い出す。
「マスターさん、ミシェルって誰ですか?」
ぴたりとマスターの動きが止まる。
「さっき私がもがいていた時にそんな事を言ったんですけど・・・・・・知り合いの女性──」
「マリア!」
大きな声で名前を呼ばれたかと思えば空気がピリピリと肌を刺すようにして揺れる。
「忘れろ、そして思い出すな。 次その名前を出したら例え新人だとしても許さないからな」
「は、はい・・・・・・すみ、ません」
「分かったなら良い、怒鳴って悪かった」
くしゃくしゃと髪を撫でるとマスターは緩く手を振りながらゆったりと部屋を出て行く。
残されたマリアは思わず地面に座り込んだ。
(こ、わかった・・・・・・あの表情。 まるで敵を見ているかのような、殺気を含む目だった)
昨夜のユルい雰囲気が嘘のような殺気は思い出しただけでもゾワッとしてしまいそうだ。
(二度とマスターに逆らわないようにしよう)
マリアはそう固く心に決めた。
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