第6話 優しい人

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第6話 優しい人

商業都市であるアイヘスの町外れ。 今回の任務の依頼場所は山の近くにぽつんと存在している小さな村──バルド村だった。 アイヘスとは違い、人も少なく、建物は家と小さな店以外に何も無い所でマリアは不思議そうに周りを見渡しながらに歩いていた。 (何も無い場所だけど空気が綺麗だな、良い気分) 「魔導師さん、ですかな?」 「ええ、問題の場所に案内して下さい」 村長らしき男性に案内されるままに、歩いていけばぐちゃぐちゃに荒らされた畑につく。 (うわぁ・・・・・・酷い、見事に荒らされてる) しかも齧ったり、食べたような、そんな跡はなくてただ単に根っこごと抜かれただけらしいが猿がこんな事出来るものなんだろうか。 「これが猿の仕業だと言う証拠は?」 畑に入って抜かれてる野菜を見て周りながらリューが問い掛ければ村長は言った。 「実際に見たのです、熊並みの大きな猿が仲間らしき猿を連れてこの畑を荒らし・・・・・・それだけではなく人間までをも襲ったのです!」 「人間を襲った?」 「ええ、今朝の話ですがね。 畑を荒らそうとしていた猿を止めようとして怪我をした人、」 村長がそこまで言うと同時に森から騒がしいザワザワという音が聞こえてきて、住民達は怯えたように悲鳴を上げながら部屋に入る。 (そ、そんなに怖いの? 確かに猿が熊並みの大きさをしてたら流石に怖いような気もする) ジッと森を見つめていればやって来た。 それも家並のデカさのキングビック猿が。 「いやいや、何が猿ですか! これって家並みじゃないですか!? 突然変異してますよ!」 猿達は勢い良く山から降りて畑を荒らし始めマリアが畑を出れば背後に居たレイが小さく息を吐くと右手に真っ黒な炎をだした。 (その炎なんだろう、どこかで見たような) 「・・・・・・黒い箱(ブラックボックス)」 小さく呟いてレイが炎を畑の中心に投げれば、勢い良く炎が燃え上がり、猿達を囲むようにしていくつかの大きな炎の檻が完成する。 (うわぁ、凄い。 炎はコントロールが難しいのにあんなに大きなものを操るなんて凄い!) 思わず見惚れていればいつの間にか出て来た住民達が炎を見るなり悲鳴を上げ始めた。 「あ、悪魔の炎!? まさかそいつ悪魔の楽園(デビルパラダイス)に居るって噂だったあの闇の魔導師(ダークスレイヤー)なのか!?」 「貴様は悪魔の子供だったのか、出て行け!」 (悪魔の炎? ああ、そうか・・・・・・!!) 確か何百年も前に起きた事件で悪魔が世界を真っ黒な炎で焼き尽くしたという大事件だ。 それ以降、各地で真っ黒な炎を扱える人間が出て来て人々はその人達を悪魔の子だと呼び見つけたら直ぐに殺すのが普通だったとか。 (でも今はそんな法律はない・・・・・・それに今は助けてくれてる。 なのに悪魔呼ばわり?) 思わずマリアが眉を寄せれば、住民の1人がレイに向かって大きめの石を投げて攻撃をした。 「・・・・・・っ」 魔法に集中していたレイが避ける事が出来るはずもなく大きな石は勢い良く当たる。 「レ、レイさん!」 地面に膝をついたレイの元に急いで傍に駆け寄れば額から血を流しながら畑を指さす。 そこには魔法から解き放たれた猿達が人間を襲おうと向かってきていて、住民達が悲鳴をあげる中でリューはいつも通り微笑んだ。 「白い槍(ホワイトスピア)」 そう言うと同時にリューの右手には真っ白な槍が握られ勢いを付けずにそれを投げる。 (それじゃ、届かな・・・・・・!) 緩かに落ちていた槍はまるで何かに引かれるようにしてスピードをつけていき、勢い良く大きな猿の胸へと一直線に進んで刺さる。 気を失うようにして地面に倒れた大猿を見て住民達は大喜びしてリューに駆け寄った。 「貴方はまさか光の魔導師(ホワイトスレイヤー)!?」 「天使と名高いあの方なのですか!?」 「ならばあの猿を倒せるのも納得だ!!!」 レイの時とは違って、大絶賛をするその姿にマリアを口を開きかけたが直ぐに止めた。 ──いや、止めさせられた。 「俺が悪役、アイツがヒーロー、それで良い」 諦めたようなそんな表情をしながら言う姿にマリアは何か言いたげに口を開いたが大きく溜息をついてからレイの頬を両手で包んだ。 「レイさん、1つだけ言わせて下さい」 「・・・・・・なんだ」 「私は他の人達みたいにレイさんを化け物とか悪魔だと思いません、だから安心して下さい」 (悪魔と言われているのを分かっていて住民を守る為に炎を使った、ただの優しい人だ。) マリアの言葉にレイは僅かに目を見開き、 「リュー2号の誕生だな」 と、面白そうに微笑みながら小さく呟く。 (えっ・・・・・・か、カッコ良い! いつもは暗いというか無表情だから分からなかったけれどカッコ良い! リューさんに負けてない!!) その穏やかな笑みにマリアは顔をうっすらと赤くしながら手で顔を覆ってうなだれた。 「・・・・・・どうした」 「少し顔面偏差値の高さに驚いてます」 「よく分からないが・・・・・・平気なら良い」 (レイさんって分かりづらいけど普通に優しい所もあるんだ・・・・・・やっぱり優しい人なんだ) こうしてマリアの初任務は無事に終わった。
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