プロローグ─1─

1/1
18人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ

プロローグ─1─

「何者だ!」 石造りの部屋の中──威厳のある声が部屋に大きく響く。 高い天井に足音が反響した。 腰に備えた剣に手を添えて辺りを見回す。 まるで巨大な爆発でも起きたかのように壁は吹き飛び床はすり鉢状に抉れ、四肢の千切れた何人もの兵士たちが無残に転がっていた。 そんな地獄絵図の中、たった二人、飄々と佇んでいた。 「今日の晩ご飯は何でしょうか?」 「・・・・・・リトルベアのステーキ」 「個人的には辛めのスパゲティが好きですけどステーキも良いですね、食欲がそそられます」 この場所には似つかわしくない会話をしてる二人は地面に倒れている兵士達に目を向ける事もせず服についた塵を静かに払っている。 白と黒、天使と悪魔。 まるで正反対な二人を呆然とした様子で眺めてた男性は我に返ったように剣を抜き放つと、刃先を二人に向けた。 「貴様らがやったのか!」 「ああ、この人達の事ならすみません。 ですけど先に襲ってきたのは──おっと、危ない」 勢いよく飛んできた火の玉を、黒髪の青年は首を軽く傾げて、いとも簡単に避けてしまう。 そして視線を前へと向ける。 「皇子よ、援軍が参りました!」 皇子と呼ばれた男は背後の階段の方からぞろぞろとやって来た兵士達を見て少し驚いたように目を見開いたがそれからすぐ自信ありげに笑みを浮かべた。 そして自身は安全な後ろの方へと下がり階段へと上ると、ふん、と鼻を鳴らして言う。 「あの二人は侵入者だ! 生死は問わん、さっさと二人を捕まえてここに連れて来い! 命令だ!!」 黒髪の青年と白髪の青年は軽く溜息をつくと 「お前が右、俺が左」 「分かりました」 何の事だと皇子が問う前に黒髪の青年は右の手の平から真っ黒な火の玉を出すと右半分に居る兵士達にボールのように投げた。 白髪の青年は左の手の平から真っ白な火の玉を出して左半分に居る兵士達に投げ付ける。 そして、1、2、3・・・・・・ドカァンッ!!! 「"黒の火の粉(ブラックスパーク)"」 「"白の火の粉(ホワイトスパーク)"」 大きな音と共に二つの火の玉が爆発して一人残らず兵士達を木っ端微塵にしてしまった。 「左半分、終わった」 「右半分、終わりました」 人を殺す事に対して、何の躊躇も後悔すらもしていない二人の青年に皇子は後ずさる。 そして階段を上っていく。 だがその瞬間──動けなくなった。 「私はあまり人を殺すのが好きではないのですがこれも依頼ですから。 恨むのなら私ではなく自分の欲深さを恨んでくださいね、そのせいで、わざわざ、」 「・・・・・・話が長い」 「失礼、そうですね。 早く終わらせて夜食を食べたいですから──それではお休みなさい」 ニコと柔らかな笑みを浮かべた黒髪の青年の背後には目を布のような物で覆ってる天使らしきものが居て皇子は思わず身を震わせる。 黒髪の青年が何かを言うと同時に天使は手に持っていた剣の刃先を震える皇子へと向けた。 そして──高く腕を上げて振り下ろす。 「仕事は終わりですね、帰りましょうか」 真っ赤な血が地面に広がっていくのを確認し黒髪の青年は隣に居る男に声を掛けた。 「・・・・・・ああ」 「そう言えば今日は良く話しますね、いつもは口を開けないのに。 機嫌が良いんですか?」 「何でだ」 「貴方の機嫌が良いと私も嬉しいですから」 ニコニコと人好きのする笑顔を浮かべている黒髪の青年は怪訝そうな顔をした白髪の青年と部屋を出ると同時にパチンと指を鳴らす。 石造りの部屋の中心からは真っ白な炎が現れ地面に倒れている兵士達を飲み込んで行く。 悲鳴や泣き声や呻き声は聞こえない。 部屋に響くのは、ただただ、非情に、全てを飲み込んでく炎の燃え盛る音だけだった。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!