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感謝と躾は別物。
窓を打ち付ける激しい雨音で目を覚ましたアルバンは、室内の暗さで陽が落ちている事に気付く。雫が頬を伝い額に手の甲を宛てがってみると、ぐっしょりと濡れていた。寝ている間に冷や汗を掻いていたらしい。
「大丈夫か? 真っ青な顔をしているぞ」
寝ぼけ眼で声の主を辿ると、ベッドの傍らで心配そうな面持ちをしている銀而と視線が合わさる。
「ああ、大丈夫だ。……今、何時だ? ウクは?」
「遊び疲れて寝ちまった。乳を飲ませてオムツも替えたばかりだから、しばらくは起きないはずだ。お前も、もう少し寝てろよ」
「乳……冷凍母乳を温めてくれたのか?」
「いや、ストックが無かったから、搾りたてを飲ませた」
「まさか、お前の雄っぱいを吸わせたのか?」
「馬鹿を言うなよ。俺の雄っぱいから乳は出ねぇだろ」
「じゃあ、どうやって……」
シャツが胸上まで捲れている事に気付いたアルバンは、ベッドサイドの照明を点けて呆然とする。乳輪の周りにぼやけた円が……。
「搾乳器って凄いよな! スイッチ一つで、あら不思議。雄っぱいから乳がぴゅっと出て哺乳瓶にじゃんじゃん溜まっ……ぐはっっ!」
強烈な拳が腹に打ち込まれ、銀而、敢えなく撃沈。
「何が、あら不思議だよ。勝手に乳搾り体験しやがって」
「搾ってねぇよ。自動だからスイッチ押しただけだし。次ん時には、指で摘まんでリアル乳搾りを体験してみるのもいいな。ついでに、雄っぱいから直吸いしちゃったりなんかし……ふぐぅっ!」
今度は鼻っ柱に一発お見舞いされ、鼻腔から鮮血がたらり。銀而、敢えなく凡退。
「リアル乳搾りに直吸いだと? させる訳ねぇだろうが。ふざけた事、ぬかしてんじゃねぇぞ」
「でずよね……ずみまぜん」
鼻穴にティッシュを詰めながら、耳をしゅんと伏せている。少しは反省しているようだ。
銀而は時折、突拍子もない行動を起こすが、一本気で心根が優しい。いつも率先してウクの面倒も見てくれている。仕事で疲れているだろうに笑顔も絶やさず。休日ともなると、それこそ付き切りでだ。
寝ている隙に搾乳器を試すなんて、明らかに他意を感じる上に面白がっている感も否めないが、起こさないように配慮してくれた部分も少なからず有るのだろう。それが分かるだけに、つい、許してしまう。だからと言って、躾を怠るつもりは毛頭ない。
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