口は災いの元。

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口は災いの元。

「座れ」 「はぃ……」 「何で、ベッドの上にちょこんと座ってんだよ」 「いや、だって、座れって言ったから」 「床に正座ーーっ!」 「はいーーっ!」  銀而は殿様に仕える忍者の如く俊敏な動きでベッドから飛び降り、床に平伏す。 「出すって何をだ? 太腿が何だって?」 「俺のムスコをアルバンの股に挟んでちょちょいと動かしたら、さぞや気持ちがいいだろうなぁ、なんて……」  アルバンの額に血管が浮きまくってる。これはかなり怒っているとみた。只管に謝った方が良さそうだな。いや、でも、俺だけが悪いわけじゃねぇと思うんだよなぁ。 「その仏頂面は何だ?」 「確かに、お前の許可無しに素股しようとしたのは悪いけどさ」 「悪いけど? 不満があるならはっきり言え」 「だってさぁ、一緒に寝てもいいなんて言われたら、挿れるのは駄目でも素股ぐらいは期待しちゃうだろ? 健全な雄なんだからよ」 「……そうか、そうだな。お前に期待を持たせた俺が悪かった」 あれ? アルバンの奴、やけに素直じゃんか。反省しているみてぇだし、ここは一つ、俺の方が折れてやるか。 「分かってくれたんならいいけどさ。次からは言動に気を付けろよ。相手の気持ちを推し量る事も大事だぞ」  素直に非を認めるアルバンの真意を察するどころか、調子に乗って説教までする始末。素直な性格が銀而の良さではあるのだが、時と場合によりけり。 「ああ、そうするよ。じゃあ、お前はリビングで寝ろ。俺は一人で寝るから」 「へっ? 何でそうなるんだ?」 「お前が言ったんじゃねぇか。相手の気持ちを推し量る事も大事だぞってな。一緒に寝たら期待しちまうんだろ? それなら、別々に寝りゃあ良いだけの話だ」  今回は素直な性格が仇となったようだ。しかし、ここで諦めないのが銀而である。アルバンに必死で食い下がっていく。 「確かに、そう言ったけど……、だからって別々に寝る事はねぇだろ?」 「くっついたら勃つんだろ? 勃ったら出したくなっちまうよなぁ?」 「そりゃあ、まぁ……、そうなるな」 適当に誤魔化せば良いものを。銀而の馬鹿正直さに、アルバンは思わず吹き出しそうになるのをぐっと堪える。 「押し入れに来客用の布団があるだろ。それを敷いて寝ろ」 「しない出さない挟まない! 勃ちは……するけど、出すのは我慢するから一緒に寝ようぜ!」 「絶対だな。約束するか?」 「するするするする。約束するっ!」 「もしも破ったら、二度とウクを抱っこさせてやらねぇからな」 「はぁ? ウクを引き合いに出すなんて卑怯だぞ!」 「破る気満々じゃねぇか」 「……絶対に破りません」 「よし、入って来い」  アルバンから許しを得た銀而は、尻尾を揺らし、空かさずベッドへ潜り込む。 「あのさ、ぎゅってしてもいいか? ぎゅってするだけ。それ以上は何もしねぇから」 「ああ」 銀而は満面の笑みを浮かべながら、アルバンをぎゅっと抱き締めた。今度はベッドから追い出されないように股間部分に拳一つ分だけ隙間を空けて。
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