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独り占めは良くない。
「ちょっとだけ……」
おずおずと伸ばされた手を、アルバンは容赦無く叩く。
「授乳中は邪魔すんなって、言ってんだろ」
「アルバンばっかり、ずりーぞ! ウクを独り占めしやがって」
「悔しかったら、お前も乳を出してみろよ」
「むぅ……」
牙を剥いても軽く鼻先であしらわれてしまう銀而。ウクを産んでから、アルバンは益々強くなっている。雄っぱいママ♂恐るべし。
「満腹か? まだ、寝ちゃ駄目だぞ。げっぷしような」
体育坐りで背を向けている銀而にアルバンは苦笑する。拗ねると縮こまり、尻尾をだらりとさせる癖は幼い頃から変わっていない。
「銀而」
「何だよ?」
「ウクの背中、ぽんぽんしてくれるか?」
「勿論! 寝かし付けもしていいか?」
銀而の奴、途端に瞳を輝かせやがって。外では雄雌問わずに持て囃されているみたいだが、家の中ではいつもこんな調子だ。狼半獣人の風格がまるで感じられない。まぁ、そこが可愛いのだが。
「ああ、げっぷしたら、ベビーベッドに寝かせてやってくれ。俺は隣の部屋で仮眠してくる」
銀而はこくこくと頷き、首が据わったばかりのウクを慎重に抱き受けた。口元から垂れた乳をそっとガーゼで拭いながら、尻尾をゆらゆらと揺らしている。余程、嬉しいらしい。
銀而にウクを託し寝室に入ると、アルバンは直ぐ様ベッドに寝そべった。体力に自信が有るとは言え、連日の夜泣きは流石に堪える。
間なしに、隣りの部屋から子守唄が聴こえて来た。調子外れな声に加え、歌詞もめちゃくちゃ。それでも、銀而の唄声はひどく耳心地が良く、アルバンは知らず知らずの内に目蓋を閉じた。
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