赤、青、黄色

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 この医者が名医だなんて赤坂さんはよく言ったものだ。みどりは完全におちょくられている。でも、怒って飛び出せないのがみどりだ。人に腹をたてることはあるがその感情をあらわせない。こういう性分だから仕方がないのか。みどりは目を点にして感情を押し殺す。その目でじいっと医者を見ていると看護師さんがくすくす笑っている。 「青井さん、目が点になっていますよ。そんな目で凝視しないでください。まるで生きてない人に見つめられている気分だ」 「いま無心になっているんです」 「なんでまた」 「私はどうしたらいいか分からなくなったときこうするんです。お気になさらず診察を続けてください」  みどりはまばたきもせずに点の目で医者を見る。医者も真似をして点の目で見返してきた。 「なるほど、本当だ。無心になりますね。いいことを聞いた。これから、なにかあったらこの目をしよう」  看護師さんは笑いが耐えきれなくなったのかバタンっとドアを閉めて出て行った。ドアの向こうで大爆笑が聞こえる。  ずうっとこんなことをしていても時間の無駄だとみどりは思ったので本題を言う。 「熱があってのども痛いんですよ」 「じゃあ、喉をみせてください」  みどりは口を大きくあける。 「口の中にはボツボツは無いようですが、赤くなってますね」 「ボツボツが出来てないのは自分で分かりますよ」  まったく失礼な医者だ。
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