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「そうだ、待合室にいる患者さんが同じ症状か知りたい。処方箋をだす前にその人の診察をします」
みどりは早く帰って寝たかったのだが、医者が言うんだから言うことをきくしかないだろう。
「同じ会社の人はなんて名前?」
「赤坂さんですよ」
「分かった、その方を診察をしたらまた呼ぶから少し待っててくださいね」
みどりはお辞儀をして診察室を出た。なんだか無駄な労力を使ってしまっている。病院選びを失敗したのだろうか。いきつけの総合病院に行けばよかった。あそこはだいぶ待たせるからここにしたのに……みどりは肩を落として廊下を歩く。
待合室に行くと赤坂さんが「やあ、診察終わり?」と言った。
「まだです」
「随分と楽しそうだったね、笑い声が聞こえて来たよ」
看護師さんが廊下で大笑いをしたからそれが聞こえたんだろう。
「楽しいことなんてなかったです」
みどりは赤坂さんから少し離れたところに腰かける。
「それで、なんで診察がまだなの?」
「うつる病気かもしれないから赤坂さんの診察してからだそうですよ」
「そうか。青井さんが俺に風邪をうつしたんだな」
「そうとも限らないですよ」
「なんで?」
「逆かもしれないですし」
赤坂さんは「そうか、そうか、その通りだな」と言って目を細めて笑う。二重で感じのいい目、ちょっとベビーフェイスなのに体格のいい身体。みどりが大学三年生のときに失恋した相手に似ている。あのときを思い出すとまた胸がズキズキする。だから赤坂さんとはあまり会話したくないのだ。
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