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b2f107af-d0aa-4f1a-b950-b67f89e78d9b 午後二時、俺はダルい体を()こして、ようやく布団(ふとん)から出た。 疲れていないのに、体が起きるのを嫌がっている。 まず目に入る四畳半一間(よじょうはんひとま)の部屋には、近所(きんじょ)のスーパーで買ってきた菓子(かし)パンのゴミや、飲みきった紙パックの甘いコーヒーが(いく)つも(ころ)がっている。 (はら)()った俺は手を()ばして、まだビニールが(やぶ)れていないパンの(ふくろ)を取り、中身を口へと(ほう)り込んだ。 まあ、いつもの味だ。 前はよくインスタントラーメンを食べていたが、それがいつしかカップラーメンへと変わり、(しま)いにはお湯を()かすのもかったるくなって、より楽なものを(えら)んだ結果(けっか)が菓子パンだ。 安い、美味(うま)い、(あま)いの三拍子(さんびょうし)もついてるしな。 だが、ごく(まれ)におにぎりも買ってみるが、いちいち海苔(のり)を巻く工程(こうてい)面倒(めんどう)で、やはり菓子パンを選んでしまう。 世の中はドンドン便利になっているのなら、まずは食い物をもっと楽に摂取できるようにしてほしいものだ。 と思ったが、何が変わっても結局自分は菓子パンを食べている気がする。 たとえ世界が変わろうが滅亡しようが、俺は何も変わらないだろうな。 ああ~いっそのことこの世がドラクエみたいにモンスターが出る世界になればいいのに。 そうすれば経験値と金を稼いで、誰もが勇者になれる。 ……なんてな。 いい年こいて何を考えてんだが、俺は……。 そんなこと起きるはずないじゃないか。 そもそもコミュニケーション障害の俺が勇者になってどうする? 魔王から世界を救うか? いや、救わない。 逆に俺は自分の嫌いな奴を皆殺しにして回るだろうな。 ミナデインとか使って……。 いや、その魔法は一人で使えなかったっけ。 元気玉もそうだけど、最後はみんなの力でとかそういうのって、俺みたいな人間からすると嘘くさく感じるんだよな。 人間同士なんて所詮、損得でしか繋がらないんだから。 仲間仲間いってる話はつまらんよ。 そう思いながら俺は、口の中に入れた菓子パンをゴクッと飲み込んだ。 そういえば、もうまともな料理なんて親が死んだ数年前から食べていない。 ……いや、数十年前だっけ? まあいい、ともかく人が調理(ちょうり)したものなんてもうずっと食べていない。 それどころか、俺は他人と会話すらしていない。 いや、したな。 こないだ夜にスーパーへ行ったときにレジで、「当店のポイントカードはお持ちですか?」と(たず)ねられて「いいえ」と答えたときだ。 俺の近所には何故かスーパーとコンビニが多い。 それはもう戦国時代(せんごくじだい)群雄割拠(ぐんゆうかっきょ)というくらいにだ。 それで俺は、意図的(いとてき)に買い物へ行くところは変えている。 距離(きょり)もほとんど同じだし、大して()にはならない。 うん? 何故店を変えるかって? 答えは簡単(かんたん)だ。 それは、店員に顔を(おぼ)えられないようにするためだ。 さっきのレジの話に(もど)るが、その(わか)い店員――おそらく学生のアルバイトかなんかだろう、たまに顔を見る女だった。 その女の顔をチラッと見ったとき、(あき)らかに俺のことを笑っていた。 おそらく見た目でわかったのだろう。 見るからに引きこもりのオーラを(はな)っている俺を見て、つい営業(えいぎょう)スマイルが嘲笑(ちょうしょう)へと――つまり本音(ほんね)が顔に出てしまったのだ。 ここまで気を使って店を変え、覚えられないようにしているというのに、やはり女って生き物は油断(ゆだん)ならん。 連中はすぐに人の悪いところを(さが)しだし、そのことで仲間とコミュニケーションをとる最悪(さいあく)生物(せいぶつ)だ。 それに人のことを見た目で判断(はんだん)し、さらには金がないブサイクのことは人間(あつか)いをしないのだ。 俺は学生時代からずっと女が(きら)いだ。 それは、大学を卒業(そつぎょう)して社会に出ても、風俗(ふうぞく)童貞(どうてい)()てても同じだった。 えっ? 女が嫌いなのに何で風俗へ行ったのかだって? ……そう、そこなんだ。 女が大嫌いなはずの俺は、昔ソープランドへ行ってしまったんだ。 先に言っておくが、これから話すことはけして言い(わけ)ではない。 いいか、もう一度言う。 (だん)じて言い訳ではない。 そもそも俺は言い訳などしたことがないんだ。 ……言い()ぎた。 話を(もど)そう。 俺はまともな人間であるがゆえに、本能(ほんのう)という欲求(よっきゅう)――つまるところの性欲(せいよく)があるという(くる)しみに()え続けている。 嫌いな女という生物とエロいことしたくてしょうがないという衝動(しょうどう)が、今でもずっと俺を苦しめているんだ。 あぁ、なんて不条理(ふじょうり)なのだろう。 自分が嫌悪(けんお)する対象(たいしょう)興奮(こうふん)してしまうなんて……。 俺はそう思うと、ふいに性的衝動(せいてきしょうどう)()き上がってきた。 まあ、いつものことだ。 早速(さっそく)ティッシュを用意(ようい)し、ダラダラとパンツを()いで、スマートフォンに入っているエロ動画を見ようとすると――。 「チィ~ス」 と聞こえ、顔をあげると、そこにはスーツ姿の若い女が立っていた。
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