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「“まいご”になったら、これを見せなさいって、おかあさんいってた」
視線を合わせるようにその場にしゃがみ込めば、鞄の端にキーホルダーのようなものが付いていた。そこには【杉本伸二、菜穂、太陽】の文字が記されていて、携帯の番号も書かれている。
――“菜穂”
その文字の羅列を見るだけで未だに疼く胸を嘲笑った。
「名前、太陽っていうのか」
「うん」
「いい名前だな」
どうやらある程度の会話は成立するらしい。俺の言葉に「うん!」と元気よく頷きながらとびきりの笑顔を見せるその姿に無条件で胸があたたかくなった。
「あのね、ぼくの名前ね、おかあさんがだいすきな字がはいってるんだって」
「そうなのか?」
「うん。おとうさんには、ないしょなんだって」
「…へえ?」
「だからおにーちゃんも、ないしょにしてね」
“おにーちゃん”と呼ばれた事に密かに胸を撫で下ろした。さすがに“おじさん”とか言われたらヘコむ。
内心そんな事を思いながらも「りょーかい」と言葉を返した。
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