天つ空に、耽る。

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天つ空に、耽る。

「世の中、喫煙者に厳しすぎません?」 隣に立つ部下の田辺(たなべ)はそう言いながら煙草の先に溜まった灰を落とす。 「何が何でも遠すぎでしょ、喫煙所」 「まあ、仕方ねえだろ」 普段仕事をしているデスクからこの場所に来るまでに最低でも5分以上はかかる。不満を漏らしたい気持ちも分かるが、非喫煙者の方が大半を占めているであろう今のご時世、喫煙を許されているスペースがあるだけ有難い事だと思う。 「真島(ましま)さん、もともとはこっちで働いてたんすよね?」 「ああ」 地元であるこの地に移動が言い渡されたのはひと月前の事だった。数年を経て戻ってきたこの会社に俺が知っている人間はひとりとして残っておらず、月日の流れをひしひしと感じたのもひと月前の事だ。 「で、どうでした?出会いありました?」 「ばーか、ねえよ」 「ええ、今流行ってるじゃないすかー!オフィスラブ!」 なんだそれ、と首を傾げる暇もなく「それにうちの会社の事務、可愛い子多くないすか?」と矢継ぎ早に言葉を投げかけられる。片っ端から記憶を探ってみても、事務の人間で思い浮かぶ顔はひとつしか出てこなかった。 「そうだっけ」 「いやいや、もっと興味持ってくださいよ」 興味があるとかないとかの前に、まず関わり合う事がないから仕方ないだろう。
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