君が眠る家

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君が眠る家

  プロローグ  助けて、と伸ばした手を握り返されることなど、一生ないと思っていた。  物心つく前から、彼は父親から暴力を振るわれていた。殴られたり、蹴られたり、髪を掴んで引きずり回されたり。腕のつき方が少しおかしいのは、骨折か脱臼したまま放置され、変なふうにくっついたせいだろう。  食事もあたえられない日のほうが多かった。いつもずっとおなかをすかせていたことを、おぼろげながら、覚えている。  その暴力の質がかわったのはいつのころだったろうか。  ある夜、ひとりの、やたらと太った酒臭い男がやってきた。その男は、彼の顔をしげしげと眺めにったりと笑うと、父親に何枚かの紙幣を渡し、家を出ていくよういった。 (おとうさん、どこ行くの?)
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