第10話 悠太

1/1
前へ
/18ページ
次へ

第10話 悠太

 いつものように、特に用もなく翔太が颯太のところに来ていた。そこに、悠太がやって来た。3人は仲が良く、悠太も良く特に用もなく颯太のところにやって来た。だから、その日も、用は無いのだろうと、颯太も翔太も思っていた。  ところが、悠太は、コタツのある部屋に入ると、いきなり正座して、 「今日、集まってもらったのは、他でもない」  と言った。 「いや、集まってないから。ここ、俺んち、だから」  と、颯太が言い、 「おまえが、勝手に、ここに来たんだろうが」  と、翔太が言った。 「はっはっはっ、上手いことを言うな」  と、悠太が芝居がかって言うのはスルーして、 「で、何か、用事があって来たって言いたいのか?」  と、颯太が言った。 「そうなんだ。実は、ゲームを作ったんで、テストプレイして欲しいんだ」  悠太は、芝居がかった調子に飽きたのか、普通に言った。 「へぇ、そりゃ凄い。お前、コンピュータのプログラミングとか、出来たっけ?」  翔太が感心しかけると。 「ゲームと聞いて、すぐにそっちの方だと決めつけるとは、頭が固いな」  悠太が大げさに肩をすくめて見せる。 「じゃあ、何なんだよ」  颯太が聞くと、 「カードゲームさ」  と悠太が胸を張る。 「カードゲームぅ? あの、遊戯王とか、バトルスピリッツとかみたいな?」  と、翔太が言うと、 「カードゲームと聞いて、すぐにそっちの方だと決めつけるとは……」 「それ、もう、いいよ」  悠太が言うのを、颯太が遮った。 「で、何作って来たんだ?」  翔太が聞くと、 「『カルタ』だよ」  と、悠太が答えた。 「……あのぅ、今、夏真っ盛りの7月下旬ですよねぇ?」  颯太が、額に手を当てながら尋ねる。 「That‘s right.」  余裕の悠太。 「カルタって、冬にやるもんじゃないの?」  翔太が、憐みの目で悠太を見た。 「あ、はぁ~ん。OK。君たちの言いたいことが、ようやく分かったよ」  悠太は、エセ外人ジェスチャーを、更にパワーアップして言った。 「でもね、考えてごらん。冬に売る物の商品開発を、冬に始めるおバカちゃんが、どこにいる? それじゃあ、商品が出来るころには、春になってしまうよ」 「あー、まー、言われてみれば……、って、ええっ? 売るの?」  颯太は心底驚いた。 「出版社に持ち込んで、商品化してもらうつもりだ」  と、悠太が言うのを聞いて、 「なんだ。『つもり』かよ」  と、翔太が言った。 「じゃあ、まぁ、やってみるか」  と、颯太。 「で、何てカルタなんだ?」  と、翔太。 「うむ、題して『大腸カルタ』」  悠太がそう言った瞬間、颯太と翔太が同時に左右から悠太の後頭部を叩いた。 「それ、ただ、そのタイトル付けたかっただけだろうがっ!」  翔太が責める。 「そんなことない。確かに、出発点はそこだけど、ちゃんと全部作ったから」  悠太が必死に弁明する。 「分かった。分かった。分かったから、とっととやろう」  さて、取り札を並べ終わって、読み手が悠太に決まって、「さあ、始めるぞ!」というときになって、部屋の隅でじっとしていた鋼鉄の迷惑が飛んできた。当然、悠太は驚いた。 「な、なんだ? これ? 最新型のお掃除ロボットのロンバじゃなかったの?」  パニクる悠太をなだめて何とか事情を説明すると、順応は早かった。 「じゃあ、まぁ、気を取り直して行こうか」  悠太はそう言って、読み札を読み始めた。 「がんばって、100種類以上の腸内細菌」 「はーいっ」  颯太が素早く「か」の札を取った。そのとき、鋼鉄の迷惑のどこかが、きらりと光を反射したかのように見えた。 「十二指腸は本当に指12本並べた長さだよ」 「はいっ」  今度は、翔太が「し」の札の上に右手を置いたその瞬間、 「ザクッ」  と、人差し指と薬指の間に、鋼鉄の迷惑の鋭い角が突き刺さった。  2,3秒そのまま固まっていたのだが、翔太は我に返ると、右手を急いで引っ込めて、人差し指と薬指の無事を確かめた。 「なんだ、おまえもやりたいのか?」  と、颯太がいうと、 「呑気なこと言ってんじゃねーっ!」  と、翔太が興奮して言う。 「まったくだっ!」  と、悠太も激昂している。 「取り札に穴が開いたぞ」  と、悠太が言うもんだから、 「俺の手に穴が開くとこだったわっ!」  と、翔太が、更に興奮してしまう。 「とにかく、やっとられん。俺が、読み手やる。いいな」  翔太は、有無を言わせず、悠太と交代した。 「いいかー。いくぞー」  咳払いを1つして、 「長さは約150~160cmだよ」 と、翔太が読んだ。  すると、鋼鉄の迷惑は取り札の上空で超高速回転を始めた。鋼鉄の迷惑の周りにつむじ風が生まれ、すべての取り札を舞い上げた。そして、それらのカードは四散し、颯太たちの全身にビシビシと当った。 「いや、『かるた』って、こういう遊びじゃないから……」
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加