第4話 翔太

1/1
前へ
/18ページ
次へ

第4話 翔太

 ノックの音がした。  颯太が出てみると、友人の翔太だった。特に用事はないが、やって来たらしい。  部屋に入ってきた翔太は、やはり、早速反応した。 「おい、これは何だ?」  と鋼鉄の迷惑を指さして聞く。 「それは、畳といってだな。日本の家庭には……」 「畳なんざ知っとるわっ。指さす方を良く見ろ。っつうか、明らかに変わったものって言ったら、これだろ?」  翔太はペチペチと鋼鉄の迷惑を叩いた。そう、今のところ、鋼鉄の迷惑は、畳の上に鎮座ましまして、おとなしく物のフリをしているのだ。 「ああ、それ? そりゃ、ただのお掃除ロボットのロンバだろうが」 「ロンバぁ? だって、あれって、丸い奴だろう。形も平べったいし」 「あれ? ぷぷっ。知らないの? 最新型は四角いんだよ」 「え? そうなの?」 「だって、考えてみろよ。丸で四角い部屋の本当の角っこがお掃除できますか?」 「あっ、いや、うーん。確かに、出来ないな」 「そうだろう。だから、最新型は四角いんだ」 「方向転換のとき引っかかるような……」 「あー、何か飲むか? なっ、なっ」  そう言って颯太は、台所に行った。  翔太の方は、鋼鉄の迷惑をスマホのカメラで撮影した後、何の気なしに鋼鉄の迷惑の上にスマホを置いて、コタツの前の座椅子に座った。  そのわずかな隙に、鋼鉄の迷惑の上面の天板が180度くるりと回転し、スマホを中に取り込んでしまった。  翔太が、スマホが無いことに気づいたのは、颯太が2Lペットボトルと、コップ2つを持って戻ってきて、少し話をした後だった。 「スマホが無い」 「えっ?」 「いや、スマホが無くなってる」 「スマホが?」 「ああ、確かに、ここに置いたのに」 「……ど、どこに置いたって?」 「だから、このロンバの上に」  颯太は、溜め息を1つ洩らした。 (まー、しょーがねーな。遅かれ早かればれるんだ)  颯太は、四つん這いになって、鋼鉄の迷惑に顔を近づけると、 「出せ」  といった。  翔太は、訳が分からなかった。 「何? あっ、これ、ひょっとして、音声認識金庫機能もついてるとか?」 「出せ。出さないと……」  颯太は、自分のスマホを取り出すと翔太の携帯電話にかけた。若干の間があって、鋼鉄の迷惑の中から、激しいバイブ音とけたたましい着メロが聞こえた。鋼鉄の迷惑は、たまらず、翔太のスマホを吐き出した。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加