第5話 縁切り

1/1
前へ
/18ページ
次へ

第5話 縁切り

 颯太は、翔太に、すべてを話した。 「普通、そういう場合、捨てないか?」  馬鹿を見るような目で颯太を見ながら、翔太は言った。 「捨てる?」 (はて? 捨てるとは何だろう? とんと思い当りませんが)  という感じで、颯太が答えるもんだから、翔太はちょっとイラッと来た。 「だから、あの鋼鉄の迷惑を、どこかに捨てて、縁を切れと言っている」  翔太に迫られて、颯太もやっと話が分かった。 「あー、はいはい、『捨てる』か。『捨てる』ね。あー、その発想は無かったわ」 「何でだよ。1番に思い付けよ」 「でも、捨てるってどこに?」 「どこだって良いだろ。適当なところで」 「でも、下手なところに外来種を捨てると在来種が絶滅してしまうことも……」 「あんなもんに在来種も外来種もあるかーっ」  翔太は興奮して肩で息をしていた。 「だいたい、あれ、生き物なの? それとも、ただの物なの?」 「謎だよねぇ」 「だから、普通、そういう訳のわからんものとは、縁を切りたがるもんなんだってば」 「そういうもんかねぇ」 「そういうもんだっ! とにかく、今すぐ捨てに行くぞ」  不思議なことに、散々、「捨てに行く」という話をした後なのに、鋼鉄の迷惑は颯太たちと一緒に外に出た。颯太たちは、まずスーパーに向かった。颯太がいくといったのだが、翔太はその意図が分からなかった。 「スーパーなんか行って、どうするんだ?」 「は? 段ボールもらうに決まってるだろ」  スーパーに着くと、颯太は店員さんに、 「みかんの空き段ボール箱は、ありませんか?」  と聞いた。 「ある訳ねえだろ! 今、7月だぞ!」  困り顔の店員に成り代わり、翔太がツッコんだ。  渋々という感じで、キャベツの段ボール箱をもらった颯太に、翔太は、 「何がしたいのかも、何が不満なのかもわからん」  と言った。  やがて、颯太たちは、颯太が初めて鋼鉄の迷惑を見た電信柱の根元に来た。  すると颯太は、持ってきたガムテープやマジックやもらったダンボールで何か作り始めた。そして、あっという間に完成したようで、鋼鉄の迷惑に、地面に置かれたキャベツの段ボール箱に入るように指示した。段ボール箱には張り紙がしてあり、そこにはこう書かれていた。 「この子をもらってください。なまえは『こうてつのめいわく』です。かわいがってね」  それを見た翔太は、しばらく固まっていた。 「いやー、このシチュエーションなら、やっぱり、みかん箱がベストだよなー」 「……こ、こ、こ、この、バカ、色々バカ」 「『色々バカ』ってなんだよ」 「あーっ、もうっ、帰るっ。とにかく帰るぞ!」  翔太が、ズンズン歩いていくので、颯太は、ガムテープやマジックを急いで片付けて、後を追った。  翔太たちは、颯太の安アパートに帰ってきた。翔太は、いつも颯太が鍵を開けると、家主である颯太より先に部屋に入ってしまう。だから、颯太は翔太に忠告したのだ。 「部屋に入るとき、足元に注意しろよ」  しかし、それは、少々タイミングが遅かったようだ。翔太は、ものの見事にコケてしまった。そう、玄関で待ち構えていた鋼鉄の迷惑につまずいて。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加