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第7話 勧誘
「『作戦』などというから、てっきり姑息な手段に訴えるのかと思ったぞ」
天、地、人、3人横並びで歩きながら、天が言った。
「いや、これが上手く行かなかったら、だんだん『姑息』になって行きますよ」
人は「姑息」と言われたのが気に入らないらしい。
「おいおい」
と、地がたしなめる。
「でも最初に、これをやっとかないと、誠意を疑われますからね」
そういう人に、地は、
「まぁ、『直接、こちらに来て頂くよう説得する』というのは、当たり前すぎるほど当たり前のことではあるが、だからこそ、はずしてはいけないことではあるな」
と言った。
「ところで、その記念すべきファーストコンタクトが、こんな格好で良いんですかね」
人が自分たちの身なりを見回して言った。
「『こんな格好』とは何だ! これは、我ら『鋼はがねの絆』の公式コスチュームの一つだぞ!」
天は怒った。
ちなみに、どんなコスチュームかというと、上はTシャツ1枚、下はワークマンで買い揃えた作業ズボン。Tシャツのデザインはというと、目にも眩しい黄色地に、前には、鋼板をリベット打ちして作った「絆」のデザイン文字が、背中には、太めのゴシック体で背番号が入っていた。背番号は、それぞれ、天が1、地が2、人が3となっていた。
さて、3人は「ご神体観察日記」より割り出したベストポジションと思われる場所で、鋼鉄の迷惑を待ち伏せした。すると、予定通り鋼鉄の迷惑が、ふよふよと飛んで来た。3人は頷きあい、天が鋼鉄の迷惑の前に出た。
「あ、すみません。ちょっと、お時間よろしいでしょうか?」
つい、それ系のバイトのくせが出てしまう天。宗教だけでは食って行けないので、バイト経験は無駄に豊富だ。
「私ども、『鋼の絆』と申しまして、新しい……」
鋼鉄の迷惑は無視して天の脇をすり抜けてしまう。
「あ、待って下さい。話を聞いて下さい」
天は、鋼鉄の迷惑の後ろを歩きながら、話し続けた。
「あなた様の存在が、私どもの教義と、まさに……」
その瞬間、鋼鉄の迷惑が急加速をして逃げようとした。しかし、天は、反射的にそれに反応し、鋼鉄の迷惑に飛びついた。しかし、それでも、鋼鉄の迷惑の勢いは止まらない。それを見た地は、反射的に天の腰にしがみついた。大の大人2人を引きずりながら、それでも、鋼鉄の迷惑の勢いは衰えなかった。それを見るや、今度は人が地の腰にしがみついた。
数珠つなぎになった天、地、人を引きずって、鋼鉄の迷惑は5mくらい飛んだだろうか。とうとう、天は力尽きて、ずるりと手を放した。べちゃっと倒れこむ天、地、人。歩道に無駄に長い直線を描いた。
「今度は、ちょっとだけ『姑息』な手を使いましょう」
人が「姑息」に、ちょっとだけ力を入れて言った。
「こだわるな」
憮然として天。
「科学省たる私の出番ですな」
地は、はりきっている。
「で、上手くできたのか?」
天が聞く。
「バッチリです」
地が胸を叩く。
「よし、行くぞ」
「どうか、お話をお聞きください」
懇願する天の横をすり抜け加速して逃げようとする鋼鉄の迷惑。そうはさせじと天がズボンの両ポケットから取り出したのは、強力な磁石のついた取っ手。それを、鋼鉄の迷惑に、ガインッガインッと貼り付けると、しっかり握りしめた。それを確認した瞬間、地が天にしがみつき、人が地にしがみつく。しかも、この前のように、腰ではなく、胸のあたりなので、6本の足でブレーキをかけることができる。さしもの鋼鉄の迷惑も、若干減速したように思われる。
「今です、天先生。お話し下さい」
地が天の耳元で言う。頷く天。
「手荒な真似をいたしまして申し訳ありません。どうしてもお話を……うわっ!」
鋼鉄の迷惑が急に建物の角で曲がったものだから、3人はしたたかにコンクリートの壁に打ち付けられ、こそげ落とされるように振り切られた。
「ま、曲がるの無し……」
地がうめいた。
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