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 シャリラさんと急いでお風呂に入って体を綺麗にしてからいつものメイド服に着替える。  おおう。やっぱり仕事って感じがして気分が引き締まるわ。  あと体がさっぱりするのって大事だわ。自分が汗臭いって超凹むもんねえ。  お蔭ですっかりいつもの調子が戻った。まあ2日ぐらい寝てただけだしね結局は。 「よし、それじゃご飯作らないと」  私がいそいそと厨房へ向かうのに付き添いながら、シャリラさんが心配そうな顔をした。 「本当に大丈夫なのキリ?休んでなくて平気?」 「元が健康体なので全然問題ありません。シャリラ様もお疲れのようですからお休み下さい」 「安心出来るまでは付き合うわよ」  過保護だなあ、と思いつつも有り難く厨房へ一緒に歩いていった。 「キリさん!もう出歩いて大丈夫なんですか!」  厨房でチーフが驚いた顔をして走り寄って来た。サブチーフも他の皆も驚いた顔をしている。  まだ昼前なので、ジャガイモの皮むきなど下ごしらえをしていたようだ。 「ご心配おかけしましたが、すっかり元気です。聖女ビアンカのお蔭ですねえ。  すみませんが私と聖女ビアンカの食事を作るので少し場所をお借りしても?」 「いや、そんな勿論いいに決まってますけど……聖女ビアンカの分もキリさんが?  元はと言えばあいつらのせいでお怪我したんじゃありませんか!」 「いやまあ、バッカス王国の方には思う所もない訳じゃないですけど、聖女ビアンカは命の恩人でもありますから。ダメですよ皆さん、私と一緒で聖女ビアンカは元々こちらの世界の方ではないんですから。巻き込まれただけの方を非難するのは間違ってますよ」 「いや、まあそうですけど」 「はい分かったらどいて下さいね。……雑炊よりチーズリゾットとかの方がいいかしらね。朝からドーナツとかステーキやら食べる強靭な胃を持つ国の人だものね」  海外旅行ひとつした事がない自分には、テレビなどで見たまんまのイメージしかない。  きっとさっぱり系よりこってり系だろうと判断し、小鍋を2つ出して玉ねぎとマッシュルームを入れたチーズリゾットと、あっさりとだしと醤油のつゆにネギととき玉子を入れた雑炊を作り、その間にバナナやリンゴ、マスカットなどをカットしてフルーツポンチを作った。 「……キリ、まさか聖女ビアンカと一緒に食事を?」  料理を運ぶワゴン車にせっせと料理や飲み物を乗せていると、いつの間にかシャリラさんが立っていた入口の所にレルフィード様がそっと立って覗いていた。 「そうですけど。ああ、どこの部屋か聞いてませんでしたね。レルフィード様教えて頂けますか?」 「──フィーと呼んでくれないのか」 「メイド服着ている時は基本的に仕事モードだと思って頂けますか?」 「……ああ分かった。ワゴンは私が運ぶ。急に具合が悪くなったら大変だからな」 「ありがとうございます」  国王にワゴン車を転がしてもらうメイドと言うのもかなり大問題な気がするが、どうせ言ったところで聞きはしないだろう。  私は諦めてレルフィード様の後ろをついていくのだった。 ◆  ◆  ◆ 「……聖女キリ?貴女なんでメイド服着て仕事してるのよ!寝てなきゃダメじゃないの!」  聖女ビアンカが軟禁されていた部屋はごく普通の客間に見えたが、窓には格子が嵌まって出入り出来ないようになっていた。この城は下のフロアはそういう部屋が多い。私の部屋もそうだ。  これは中から誰かが逃げ出さないようにと言うよりも、外から敵が入って来ないように城の人間を守るための作りのようである。まあバッカス王国のように高い魔力を誇る国だというだけで一方的に敵意が向けられているような国だから仕方がないのかも知れない。 「聖女ビアンカのお蔭でもうすっかり元気です。この度はありがとうございました」  私は頭を下げた。 「私も今日目が覚めたばかりなのですが、寝てるのは体力いるじゃないですか?お腹が空いてお腹が空いて。聖女ビアンカもそうじゃないかなと思って、食事を作って来ました。  一緒に食べませんか?」 「……私はバッカス王国の聖女として来た人間だから、そんなに気を遣わなくてもいいわ」  聖女ビアンカが気まずそうに呟いたが、私は勝手にテーブルセッティングを始めた。   「まあそう言わずに。チーズリゾットとかお好きですか?食欲ないといけないと思って、さっぱりしたフルーツポンチも用意しました。ああその前にオレンジジュースはいかがですか?」  ベッドにガウンをまとって座っていた聖女ビアンカがごくりと喉を鳴らした。 「……喉が渇いてたの」  そう言うと立ち上がり、レルフィード様を見た。 「レルフィード国王陛下、頂いてもよろしいのですか?」 「──せっかくキリが作ってくれたのだから、食べてくれないとキリが悲しむ」 「ありがとうございます。それでは遠慮なく頂きます」  テーブル席に座り、オレンジジュースを飲む。 「美味しい……」 「そりゃ搾りたてですから!リゾットもお口に合えばいいんですけど」  スプーンを手に取ると、聖女ビアンカはゆっくりした手つきでリゾットを掬い、口に運んだ。 「……リゾットも美味しいわ。聖女キリ、貴女料理が上手ね」  笑った聖女ビアンカは、年相応に幼げで愛らしかった。 「貴女のはリゾットじゃないの?」  私が蓋を開けた小鍋を見て聖女ビアンカは首を傾げた。 「私のは日本人向けの雑炊といいます。醤油味の玉子雑炊ですね。1口召し上がります?」 「ええ。──あら、これも美味しいわ。魚の香りがするけど、……ドライドボニートね?」 「えーと、乾燥したカツオ……そうそう、そうです!カツオブシ。詳しいですね日本食」 「アメリカの脂っこい食事は美味しいけど、油断するとすぐ太るから。ヘルシーな日本食はとても人気なのよ。トーフとかね」 「なるほど。じゃあヘルシーな日本食の方がよかったですか?交換します?」 「いえいいわ。こっちも美味しいから。バッカス王国では同じような料理ばかりで飽き飽きしていたの。久しぶりに母国の料理を食べた気がするわ」  嬉しそうにパクパクと食べているので私も自分の食事を始めようとして気がついた。 「あ、すみません、レルフィード様の食事の事忘れていました!」 「いいんだ。でも今夜の食事は一緒に食べたい」 「でも……」 「キリが美味しそうに食べてるだけで胸がいっぱいだ」  だからそんな綺麗な顔で笑顔を振り撒かないで欲しい。心臓に悪い。 「仲良しね。貴女たち結婚するの?」 「けっ!い、いえ、私はその、帰る人間なので……」  笑顔だったレルフィード様の眉間にシワが寄ってしまった。ううう。  悲しませるつもりなんてなかったのに。 「あら。別に結婚しておばーちゃんになってから帰ればいいじゃないの。なんでそんなに急がなきゃいけないのよ」  不思議そうな顔をしている聖女ビアンカに私の方が驚いた。 「え?」 「……え?」
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