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【43】
「え?」
「……え?」
私とレルフィード様がポカンとした顔をしているのを見て、逆に聖女ビアンカが驚いた。
「……へ?だって、召喚された人間は、帰る時には召喚された時間に戻してくれるって教えて貰ったわよ?
ってことは、別にこっちで老衰ギリギリまで居ても、帰ったらピチピチの若い頃に戻ってる訳でしょう?
急ぐ必要どこにあるのよ」
「……言われてみたらそうですけども、でも聖女の役目を終えたら即帰還するモノじゃないんですか……?」
「人間の国ならね。
だってかなりの魔力を使うらしいし、こっちにおばーちゃんになるまで居たら、魔力の高い人が死んじゃってるかも知れないでしょう?
必ずしも毎回召喚や帰還に必要なだけの魔力持ちが常時いる訳じゃないみたいだし。
車はあるけどガソリンがない状態ね。帰りたくても帰れなくなる可能性があるから、用事が済んだら魔力を持つ人間がいる間にさっさと帰すと言うのがデフォルトらしいのだけど、魔族って長生きなんでしょう?」
「ああ。千年以上生きてるのも普通にいる」
「だったら、魔力は安定供給出来るじゃない。
こっちで結婚して孫に囲まれて往生寸前にまたティーンエイジャーに戻れるとか最高じゃないの」
「ティーンエイジャーって。 私は27ですよ」
「っ!……やだ、ジャパニーズって恐ろしいわねえ。絶対年下だと思ってたわ……」
ブツブツ呟いている聖女ビアンカはともかく、私は目からウロコがぼろんぼろん落ちた。
すぐ帰らなくてもいいのか。そうか。
「──レルフィード様」
「──何だ?」
「あの、私、もう少し居ても大丈夫っぽいですよね?」
「ああ、そうだな。私も考えた事もなかった。
すぐ帰さなければならないのは魔力の問題だけだったなんて……」
「それでですね」
「うん」
「レルフィード様さえ問題なければですが……嫁にして頂けませんか?」
「うん……えっ!?いきなり何を言うんだ!」
「……駄目ですか?」
「違うそうじゃない!ずるいぞ、私が先に言わなきゃいけない事じゃないか!」
レルフィード様はいきなり膝をついて、私の手を取った。
「必ずキリを元の世界に帰す事を約束する。
だから、それまで妻としてこの世界に居て欲しい。
キリ、誰よりも愛してる」
「私も愛してます。では末永く宜しくお願いします」
私たちが見つめあっていると、
「あのー……大変ロマンティックなシーンに申し訳ないんだけど、フルーツポンチのお代わりってあるかしら?」
と申し訳なさそうな聖女ビアンカの声がして、私は思わず笑ってしまった。
「ええ勿論!」
□■□■□■□■□■□■
「ねえフィー?」
「何だ?」
「あの……どうやら子供が出来たみたいなのだけど」
「っっっ!!本当かっ?」
レルフィードと結婚して2年が経った。
魔族と人間との子供は出来にくいとベーカー先生(フィーがジジイと呼んでいる先生だ)が言っていたが、思った以上に早く授かってしまって、何だか恥ずかしい。
「ありがとうキリ!男かな女かな。いやどっちでもいい私たちの子供なんてどちらでも可愛いに決まってる。
祝いだ……国を上げての祭を開催せねば……」
バッカス王国の王子たちと勇者は、国へ帰った。
アーノルドも結局、こちらでは何もしなかった。
アーノルドが一番反省しており、何度も死んで詫びようと自傷行為に走ったので、直接私が顔を見せて、恨んでないし元気だから、と落ち着かせなければならなかったのが一番手間取ったぐらいだ。
ちゃんと念書もかかせ、レルフィードからの絶対不可侵条約も持たせた。
まあ【王子からの念書も貰ったし、もしこれからもちょっかい出すようなら、国が滅ぶまで全力で行くからよろ(要約)】みたいなものを送られた国王も驚いただろうが、それからは不穏な動きは一切ないので、今のところは放っておいても平気そうだ。
聖女ビアンカについては、何故か未だにマイロンド王国にいる。
レルフィードが、
「キリの命の恩人だし、私たちが結婚できる事が分かったのも聖女ビアンカのお蔭だ。
何かこちらで出来る事があれば感謝の気持ちとして出来る限り叶えよう」
と伝えたところ、
「それなら、折角ファンタジーの世界にいるのだから、私も当分こちらで暮らしたい。そして、帰りたい時が来たらこちらから送り返して貰えないか。
聖女という言葉も不要だからただのビアンカで」
という希望があった為だ。
そして、聖女としては私より魔力が段違いに高かった彼女は、治癒の力をマイロンド王国の国民に使う事にした。つまりは医者になったのだ。
(ちなみに私はせいぜい擦り傷や簡単な骨折位しか治せない)
魔族としても結構な大ケガだった時も、ビアンカが来れば治してくれるということで、最初は胡散臭がっていた国民も、ビアンカ先生と呼んで敬っている。
「キリ、私は勧善懲悪なヒーローにすごく憧れてたけど、この仕事もヒーローみたいで気に入ってるの!
みんなが喜んでくれる仕事って嬉しいわよね。
……あら、女だとヒロインなのかしら?
でもそれだとヒーローの相手役ってだけで、特別何かをする訳ではないわよね?
やっぱりヒーローでいいわよね!」
と本人はいたくご機嫌である。
そして、この頃ではジオンさんが猛烈にアタックを始めたようだ。
「アイツはバカだから、自分がぶっ倒れる寸前まで治癒の魔法使いまくるんだよ。いやもう本当にバカだから、放っておけないんだよなあ」
などと言いながら、いそいそデートに誘ったりしているらしい。
シャリラさんは相変わらず特定の恋人はいないが、
「キリが居れば美味しいし楽しいからいいの♪」
とスイーツやご飯を一緒に食べたり、何かあればむぎゅむぎゅ抱き締めてくるので、レルフィードにぺりっと引き剥がされている。
「この触り心地が堪らないわぁ。……まっ、レルフィード様邪魔しないで頂けます?女同士の交流なのですから」
「キリはまるっと全部私のキリだから駄目だ!
交流は抱き締めなくても出来る!」
どちらも大人げない。
流石に王妃になったらメイド仕事はさせられないと言われて無職になってしまったが、城内でしか食べられない魅惑のメニューというのが町中でも評判になり、料理の講師として外に出るようになった。
お蔭でマイロンド王国の食事事情は素晴らしく私好み、というか美味しい物が増えて、そこに創意工夫が生まれて更に美味しい物が出来るという相乗効果もあり、他国への卸販売なんかも行えるようになったらしい。
まあ魔力で冷蔵、冷凍状態で運ぶ事も可能だから傷まない。そういう意味では魔力の高い魔族との取引はメリットしかないので、少しずつではあるがマイロンド王国の評価も変わってきているらしい。
私も人外レベルのイケメンで優しい旦那様が出来て幸せだった。
だが、私はこの時はまだ知らなかった。
この先男、男、女と3人の子供に恵まれて、幸いな事にレルフィードの魔力の高さを受け継いだ子供たちが、まだ子供にしか見えない状態で私が年を取る事を。
70を越えたしわくちゃのバー様になった状態でも人外イケメンレベルのまんまのレルフィードからの愛情が消えず、流石に私もいつ死ぬか分かんないからと日本へ送り帰して貰ったのに、1週間もしない内にまた召喚されてしまう事も。
そしてそれが延々と繰り返される事も。
でもまあ、レルフィードも子供たちも幸せそうだしいいかと思う。
レルフィードが死ぬ時は、帰らず私もそのままこっちに居ようと思っているが、魔力の高い子供や孫たちにまた送り返されてしれっと呼び戻されそうな気配がするのが怖い。
ビアンカも暫くしてジオンと結婚して同じ目に遇っており、たまに2人して、
「いやー、末永くとは言ったけども、なんかこうエンドレス感がちょっと、ほんのちょっとだけ疲れるわよねぇ……」
と思ってたりするような未来が待っている事など。
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