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同期入社の梶原くんはその顔と声で、女子社員たちの人気を独り占めしているけれど、正直、私はイケメン過ぎて苦手だ。
ブルーブラックのスーツにレモンイエローのネクタイ。クールビズなどどこ吹く風といった出で立ちなのに、彼の周りにはなぜか爽やかな風さえ感じられる。
「おはよう」
前髪でニキビを隠しながら挨拶すると、その動作がかえって彼の注意を額に向けさせてしまったみたいで、「あれ?」と顔を覗き込まれてしまった。
「言わないで! わかってるから」
「それ……」
「お願い! ここは黙って見逃がして!」
両手を胸の前で組んで懇願したのに、彼は私の額をじっと見つめたままだ。その痛いほどの視線を避けるように、私はプイッと顔を彼とは正反対の方に向けて歩き出した。
会社のゲートに社員証をかざして通り抜けると、エレベーターを待つ人たちの中に同期の冴香の姿を見つけて思わず俯いた。それなのに……。
「梶原くん、おはよう! あらら、美波。ずいぶん大きな吹き出物」
「吹き出物とか言うなぁ!」
「不摂生が祟ったのよ。どうせまたゲームに熱中して寝不足なんでしょ?」
「そうじゃないよな。美波ちゃんは新しいプロジェクトメンバーに選ばれて、今、必死で企画を考えてるところなんだよ」
「え……」
その通りだけれど、それをどうして梶原くんが知っているの? 梶原くんは企画部の私とはフロアも違う営業部なのに。
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