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「そうなんだ。でも、ほどほどにしておかないと、大人ニキビじゃ済まないよ? 美波は夢中になると寝食を忘れるタイプだから」
「わかってる。ぶっ倒れないように、とりあえず何か口に入れるようにはしてるよ。バナナチョコバーとかナッツチョコバーとかマシュマロチョコバーとか」
「大人ニキビの原因はそれね」
「だな」
冴香と梶原くんの呆れたような目が痛い。
頷き合う二人の頭の向こうに経理の田中課長が見えて、私は咄嗟に梶原くんの背中に隠れた。
「美波、何してんの?」
「田中課長にだけは、こんなおでこ見られたくないの!」
「まだ好きなんだ?」
梶原くんが振り向いたから、危うく田中課長に見られるところだった。一瞬、目が合ったような気もしたけれど、田中課長はそのままエレベーターに乗り込んだから、たぶん大丈夫だろう。私たちも隣のエレベーターに乗って、それぞれの階のボタンを押した。
それにしても、今日の田中課長も素敵だった。田中課長は背が高くて眼鏡の似合う知的なイケメンだ。私は入社式で彼を見て以来、ずっと憧れている。
「ろくに話したこともないのに、見た目だけで惚れちゃったのよね、美波は。直属の部下である私に言わせれば、あんな底意地の悪い男に惚れるなんて見る目がないとしか言いようがないけど」
「見た目だけじゃないもん。私が入社式ですっ転んだ時、田中課長は優しく微笑みながら手を差し伸べてくれたの」
あの時のことを思い出すだけで、ポワンと頭の中にお花が咲く感じがするのだ。
誰にでも笑顔で接する梶原くんは爽やか好青年だとは思うけれど、私は私にだけ笑顔を見せてくれる人がいい。
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