大人ニキビが出来た朝

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「あれは“優しい微笑み”じゃなく“呆れた苦笑い”だったけどね。フィルター掛かってるって怖いわ。美波がそこまで田中課長のこと好きなら、告白すればいいのに」 「告白⁉」 「梶原くんもそう思うでしょ? 長い片思いには早く終止符を打った方がいいって」  私の玉砕は決定事項らしい。  自分でもそう思うから今まで告白しなかったんだけれど、他人に指摘されるとグサッと日本刀で切り付けられたような痛みが胸に走った。 「どうかな。俺としては美波ちゃんが告白してフラれればいいと思うけど、万が一にも田中課長と付き合うことになったら困る」 「困る? なんで?」  私の疑問に答えることなく梶原くんは「じゃあね」と手を上げて、営業部のフロアでエレベーターを降りてしまった。 「え? 何よ、今のは」 「美波のことが好きってことでしょうが、この鈍感娘!」 「は⁉ だって梶原くんだよ? あのモテモテ男がどうして選りによって私なんかを?」 「ホント、物好きだよね」 「うん……」  だって、信じられない。他にいくらでも綺麗な子はいるし、スタイル抜群の冴香だっているのに。  私なんてメイクも手抜き、ファッションも垢抜けなくて、セットするのが面倒だから髪はいつも後ろで一つ結びにしているだけだ。  そして、今日の目玉のこの大人ニキビ。肌のお手入れすら怠っていたことが如実に表れてしまった。  こんな女子力の低い女を好きになる男が、この世にいるなんて信じられない。
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