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キレイになりたい
終業後、一階ロビーに下りていくと、受付横のベンチに梶原くんが座っているのが見えてドキッとした。
誰かを待っているのかな? 確か彼には交際中の彼女はいなかったはずだけれど、誰かと待ち合わせ?
今まで何とも思っていなかったのに、今朝エレベーターの中であんなことを言われたせいで、妙に意識してしまう。
「お疲れ様」
「お、お疲れ様」
私ったら動揺しすぎ。
うっとりするほどいい声で、たった一言声をかけられただけで嬉しいと思ってしまう。
「今日、昼飯食べに出た時に買ってきたんだけど、良かったらどうぞ」
そう言って彼が差し出してきたのは、ドラッグストアの紙袋だった。
「え? 私に?」
「うん。大人ニキビ専用の基礎化粧品なんだ。トライアルセットだから試してみて」
「ありがとう」
「美波ちゃんの何事にも一生懸命なところは尊敬するけど、身体は労わりなよ」
「うん」
「企画を考えてて煮詰まったら、広い公園でのんびりするのもいいよ」
「そうだね」
梶原くんは私のためを思って、いろいろアドバイスしてくれた。それがすごく嬉しいのに、美人の受付嬢たちの視線が私の額に向けられているようで恥ずかしい。こんな大きな大人ニキビがある私なんか、梶原くんには相応しくない。
酷く惨めな気持ちになった私は他に何を言ったらいいのか思いつかなくて、梶原くんにもう一度「ありがとう」と頭を下げると急いで会社を出た。
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