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なかなか消えなかった額の大人ニキビが消えた翌日の朝。いつもより早く出社した私は、一人でロビーに立ってエレベーターを待っていた。
「おはよう」
「おはようございます」
挨拶を交わしたのは経理の田中課長だった。彼の目が私の顔から全身に移って、また顔に戻る。ちょっと驚いたように目を見開いた彼が、私にこう言った。
「最近、キレイになった?」
嬉しいはずなのに嬉しくない。言ってほしかった言葉だけれど、言ってほしいのは田中課長ではなかった。
「ありがとうございます。ちょっと頑張ってみました」
「へえ。良かったら今夜、一緒に飲みに行かない?」
「あー、すみません。今夜は明日の準備があるんで」
「それは残念。明日は土曜日だからどこかに出かけるんだ?」
「はい」
二年も片思いしてきた人の誘いをあっさり袖にした。見栄えが良くなっただけで、こんなに軽く誘ってくる人だなんて思わなかった。
私は私をちゃんと見ていてくれる人がいい。気にかけて応援してくれる人の方が。
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