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大人ニキビが出来た朝
子どもの頃は綺麗に剥けた茹で卵のように、白くてツルツルの肌をしていた。思春期に入ってからも、ニキビに悩まされたことはほとんどなかった。
だから油断していたのだ。大した手入れをしなくても自分は大丈夫だと。
「どうしてこんな目立つところに出来ちゃったのよ」
鏡の中の自分に文句を言っても仕方ない。
朝起きていつものように雑に洗顔してからタオルでゴシゴシ拭いていたら、額に痛みを感じた。慌てて鏡を見たら、大きな大人ニキビが鎮座ましましていたというわけ。
とりあえずコンシーラーを塗りたくって、ファンデーションを厚塗りしたら、かえってニキビを目立たせてしまったようだ。駅ですれ違う人々も通勤電車で乗り合わせた人たちも、みんなが私の額を二度見する。
いつもは右に流している前髪を左に流してニキビを隠したつもりでいたけれど、家から駅まで歩く間におでこが変な風に全開になってしまっていたらしい。
電車を降りて駅のトイレに駆け込んだ。別にお腹を下しているわけじゃないけれど、それと同じぐらい切羽詰まった状態だ。必死で前髪を直してから、会社へと急いだ。
大人ニキビのせいで、今朝はいつもよりも遅くなってしまった。角を曲がって会社の正面玄関が見え、ホッとしたところでポンと肩を叩かれた。
「おはよう!」
ドキッとするほど男らしい張りのある声に振り向くと、甘いマスクの梶原くんが微笑んでいた。
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