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そんな今まで胸につかえていたものが、本物を見て一気に溢れ出す。
だが、それもしょせんは安全なところで守られている奴のただの戯言だとも理解している。
一般人は、己や仲間を守るために自分の手すら汚していない。
だからこそ雅哉は対等になるために…先に向かうために、汚れることの重さを身をもって知らねばならない。
異能による確執と無理解の壁は、600年もの長い間影から人間社会を食らいつくしてきた。
後世に残しちゃいけない。
そう思っており、信じたかったのに。
実際に異能を見ると、その考えが正しくもあり…歪んでいるとも思う。
だいたい、人間は異能が心を開くような世界を築いていたか?
異能交渉士として人間の異能絡みの愚痴を聞いていたら、確かにアレをされたとかコレをされたとか自分のことしか考えてないし言わないし。
実際のところ、どれが一番幸せなんだろう…犯罪者でなければリーヴルに洗いざらい聞いてしまいたいんだが。
異能交渉士って、7年前にリーヴルを含めた異界の異能がこの世界に侵攻してから数年後に設立されたばかりの肩書きだから数も少ないしなりたがる奴もいないし、人間の愚痴しか聞かないから楽しい仕事じゃないし。
試行錯誤、これからたくさん必要なんだよなぁ…マイナーだしヤバい橋だし潰れるかもしれないが。
「ギャァァァ!!」
攻撃を受けた魔物がよろめいた…もちろん雅哉は気づかないが。
彼が気になるのは解析率だけである。
とはいえ、出所は良いので解析スピードは速い。
ややあって、魔物が倒れる音がする。
(解析終了。)
すぐにアラームが鳴った。
アラームは魔物が倒れる音に混じって聞こえていないだろう…ついでに近場のゴミ箱に身を隠す。
うまくやり過ごせれば良いんだが。
「やったァ!」
少年の喜びを全身の叫びで表現する声が嬉しそうである。
ちょっとだけ、雅哉も嬉しくなった。
「やっぱり、先輩は強いです!」
次々に誉め称える姿はこちらとしても微笑ましい。
同時に、少し羨ましくなる…平穏な日常には互いに真剣に背中を預けるような絆はそうそう生まれないからな。
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